破断直後のEt cetera
「はい。わ、私が申請しました。」
高坂さんがどんな些細な仕事も完璧にこなそうとするのは、全て十二村部長の厳しい教育があってこそのものだ。
十二村部長と高坂さんの信頼関係は、毎日のコミュニケーションの賜物。でも残念ながら私にはそれがない。
高坂さんから渡されたメモには疑問があったのに、再確認せず、そのまま申請してしまった私にも非がある。
とりあえずゆっくりと立ち上がり、手に汗握りながら頭を下げる。
「す、すみませんでした。すぐに申請し直します!」
「俺が学会の時、いつも2泊で行っているのを知っているな?」
「はい。」
「しかも場所まで間違っている。学会の日にちをサイトで確認はしたんだろうな? なぜ大阪にした? 俺は高坂に札幌だと言ったはずだが?」
「ちゃんと学会の日にちと場所の照合もしました。でもまさか、札幌だったなんて、」
「俺がすぐに気付いたから良かったものの、大事な学会に参加できなかったら、俺が総合病院の教授から大目玉を喰らっていたところだ。」
「すみませんでした。」
「これだから箱入りは。使えない。」
『箱入り』という言葉に耳を疑う。
(あれ……? 私、貶されてる?)
この秘書室に配属されて初めてのミスだというのに。なぜ『箱入り』などと言われなければならないのか。
(詩太さんとの初めての会話が、まさか出張申請のミスで怒られることだなんて!)
別に申請を間違えていたとしても、部長が自腹で飛行機代払って、札幌の学会まで行けばいいだけのことだ。
さっきまで緊張の汗を掻いていたはずなのに、次第に怒りの手汗が滲み出す。
とにかく再申請のため椅子に座ろうとすれば、十二村部長に水をさされた。
「それと大路、別件で話がある。今から部屋に来い。」
「……はい。」
(大事な学会の出張申請なんでしょ? なんで後回しにしてるの?! 訳が分からない!)
沸々と、自分の頭の中が小さな泡を弾き飛ばしていく。
十二村部長は大きなタメ息と共に部長室に入っていき、ソファに上着を無造作に投げた。
その不遜な態度に、つい顔をしかめる。