破断直後のEt cetera

 パソコンを開いて今日のスケジュールを確認する。

 十二村部長は、朝から取引先との会議によりすでに外出していて、夕方に帰ってくる予定になっていた。

(帰り際、十二村部長に婚約を解消したいことをちゃんと伝えてみよう。)
 
 これが仕事以外で、初めての会話になるかもしれない。そう思うとなんだか緊張してしまう。   

 でもこのまま私が何も話さず、婚約を解消するのは不自然すぎる。直属の上司なのだから失礼にあたるかもしれない。    


「大路さん、今日私、来月予定してる部長会議の資料作成するから、課長に頼まれてる提案書の作成お願いできる?」

「はい。わかりました。」


 高坂さんに言われて、メーリングにて受信した“提案書作成に基づく事項”を確認していく。
   
 周りに『心ここにあらず』がバレないよう、画面に集中する顔を貼り付ける。内心、ソワソワしながらも、十二村部長が帰ってくるのを待った。


 
 夕方、提案書を一通り書き上げたところで、軽く伸びをする。

 すると十二村部長が慌ただしく入って来た。


「高坂。」

「おかえりなさい部長。」

「昨日頼んでおいた学会の申請受理メールを見たが間違いだらけだったぞ。どういうことだ?」

「えっ……」


 高坂さんが、慌てて申請用画面にログインし、営業本部の出張申請を上から確認していく。       

(それって、私が申請したやつじゃ、)

 私も同じように申請用画面に入り、昨日申請したばかりの出張申請を開く。

でも高坂さんに渡されたメモ通り、間違いなく申請が受理されている。


「仕事は1ミリも間違いなく、完璧にこなせといつもいっているはずだ。」
  
「す、すみません! 急いで申請し直しを!」


 十二村部長が高坂さんのパソコン画面を後ろから覗く。

すると十二村部長が、視線を外すことなくつぶやいた。
 

「担当者が“大路”になっているな。おい、大路が申請したのか?」   


 左隣にいる私を一瞥したきり、またすぐに高坂さんの画面に視線を戻した十二村部長。

 私は心臓を掴まれたような思いに駆られながらも、必死に声を絞り出す。




< 13 / 59 >

この作品をシェア

pagetop