破断直後のEt cetera
思わず目の前がぐらついて、両手で抱えるファイルが抜け落ちそうになった。まるで自分の心のうちをそのまま表しているかのように、揺らいだ。
「……わ、わたし……」
外から車の走行音が聞こえて、オフィスのロータリーを見る。エンジンを止めるブレーキ音と共に、楢崎課長と同じタイミングで立ち上がる。
黒いタクシーが入口に停車し、2人で慌てて外に出た。
以前私がグローバル部に案内した女性1名と、男性3名が降り立つ。
「오신 것을 환영합니다. 약 1개월 만이군요.(ようこそ弊社へ。約1ヶ月ぶりですね。)」
「나라사키 과장, 오랜만입니다.
그 아가씨는 누구입니까?(楢崎課長、お久しぶりです。そちらの方はどなたです?)」
楢崎課長の流暢な韓国語に促されて、挨拶と名刺交換を交わす。
まさか課長にあんな顔で誘われるとは思わず、韓国語の発音に気遣いつつも、頭の中はさっきの『下心』が大半を占めていた。
(もしかして課長、私の身体が目当て?)
いや、もしそうだとしたら、立派な部下へのハラスメントに値する。頭のいい課長が、そのリスクを考えずに関係を迫るとは思えない。
そして何より、十二村部長と楢崎課長は同期で今も付き合いのある友人だ。十二村製薬後継者の目が届く範囲で不貞を行うのは、あまりにも愚かだ。
でも楢崎課長の言葉は、いつだって私に勇気をくれる。
初めて食堂で一緒にランチを食べた時には私の努力を褒めてくれたし、さっきだって、私を十二村詩太の元婚約者ではなく、私自身を見ていると言ってくれた。
孤独を感じそうな瞬間に与えられた眩い光。その言葉で、どれだけ自分の気持ちが晴れやかになったか、私が一番理解している。
それに楢崎課長は、男性としても人としても魅力的すぎる。そんな人に告白のような言葉を告げられれば、どんな無欲な人間でもきっと意識せざるを得ない。