破断直後のEt cetera
「もしかして、それで私との婚約を解消したんですか?!」
「……ああ。大路を十二村の事情で縛り付けたくなかった。」
「そんな。それじゃあまさか、私のためを思って……?」
部長の血管が熱くなっているのか、頬を包み込む指先から熱を感じる。
別に、縛り付けてくれても良かった。例え自分の自由が制限されるのだとしても。
私は詩太さんとの婚約を破棄にはしたくなかった。
「俺はそんないい人間じゃない。単純に、俺みたいな人間じゃ大路に釣り合わないんじゃないかと」
「何言ってるの? 私、さっきも言いましたよね。楢崎課長よりもかっこいいって。」
「それは、本心か?」
「本心ですよ。本心じゃなきゃ私、こんなに詩太さんのことばっか考えてません!」
なんでこの人には私の気持ちがいつまで経っても伝わらないのか。
何度唇を噛みしめてきたか。そのせいで何度涙を流したか――
ようやく分かった気がする。
詩太さんは、自分に自信がないのだ。
こんなにも背が高くてかっこよくても、十二村製薬を背負う御曹司として、ずっとプレッシャーに呑まれながら生きてきたのだ。
いつも上から指図する鋭利な瞳は、時に切なく淋しい色を滲ませる。
その淋しさを、私が塗り変えられたらいいのに。そう心に秘めた。
「本気にするぞ? 後から泣いて嫌がっても、絶対に俺からは離れられないからな?」
「う、詩太さんこそ。その、こんな地味で色気もない女でも、後悔しないで下さいよ?」
「地味で色気がなくても、未怜ほどいい女はいない。」
呆気にとられかけた唇が、詩太さんの唇に塞がれる。
口内で蠢く詩太さんの舌先が甘い。耳まで一気に伝染した熱が、じわじわと頭上に向かって私の思考を溶かしていく。
舌に吸い付きながら離されて、思わず感嘆の息が溢れる。
蕩けきっているであろう私の表情を見て、彼の瞳が優しく細まる。
「好きだ。俺だけのもんだよ。」
その言葉に、じんわりと目の奥が熱くなる。
長年、夢にまで見た詩太さんからの告白。もうこの人からは逃げられないし、逃さない。