追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました

 まるで慈愛に満ち溢れた聖母のような微笑みに、ここにいる誰もがラシリネの姿に見惚れる。

(この場で跪き、手の甲に口づけでも送ってくれたなら、彼女から俺に好意を向けられていると判断できたのだが……)

 やはり自分はラシリネにとって、自ら触れる価値のない人間なのだろう。
「命の恩人に恩返しがしたい」と言う一心でこの帝国を守護する聖女には立候補したが、心のどこかではまだアデラプス王国の国王を想い続けている可能性が高い。
(ここで無理やりにでも愛を囁き、手籠めにするほどの度胸が俺にもあれば……)

 神の言葉を信じていないダリウスにとって、あの男の思い通りに事を運ぶのは腸が煮えくり返るほどに我慢ならないことだった。
 だからこそ、無言で立ち去る。

(たった一言でいい。君はなんて美しいのだと口にできれば、彼女は喜んでくれただろうか……)

 あり得たかもしれない未来を、脳裏に思い描きながら……。

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