第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
目の前にいるのは、銀髪に切れ長の瞳。
容姿端麗で、剣の腕も立つ――誰からも信頼されるセナ副団長。

この人は――
お嬢様に捨てられるかもしれない、なんて不安を、きっと一度も抱いたことがないのだろう。

――いいな。

もし俺がこの人を倒せば、
この胸のざわつきも、焦りも、嫉妬も。
全部、消えるのだろうか。

覚悟を決め、足を踏み込む。

本気で向かう。
少しくらい怪我をさせても……平気、だよな。

俺は小さく息を吸い、魔宝剣を強く握りしめた。

「紅く、鋭く――
我が想いに応えよ、スピネル」

その言葉に呼応するように、
鍔元の赤い宝石が強く脈打つ。

深紅の魔力が刀身を染め上げた。

燃え盛る感情そのものが刃となり、
胸に渦巻く迷いと恐怖を焼き切っていく。

――守りたい。
捨てられたくない。
置いていかれたくない。

そのすべてが、一振りの剣へと収束する。

踏み込みと同時に、風が炸裂した。

指先から解き放たれた魔力は、
見えない刃となって空気を切り裂き、
一直線にセナ副団長へと襲いかかる。

瞬時に氷が展開される。

鋭い衝突音。
金属ではない、冷え切った空気同士がぶつかり合う音――
紅と氷、2つの魔力が激しくせめぎ合った。

セナ副団長を傷つければ、お嬢様が悲しむ。
その思考が、一瞬だけ剣を鈍らせる。
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