第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「テオ。初めて会ったときのこと、覚えてる?」

「……うん」

「私、あなたに言ったよね。
生きていてよかったって、幸せだって思えるようにするって」

ゆっくりと、思い出をなぞるように続ける。

「それはね……これから先も、変わらないよ」

彼の目を見つめながら、言葉を選んだ。

「私だけじゃない。
テオのことを心配して、気にかけてくれる人たちがいる。
その人たちの存在も、大切にしてほしいの」

胸の奥に願いを込める。

「そうすれば、きっと――
あなた自身が、ここにいていいんだって思えるようになるから」

「……違う」

かすれた声が、静かに震えた。

「俺は、他の誰かなんていらない。
お嬢様しか……いらない」

握られる手に、強い力がこもる。

「俺が、お嬢様のそばにいられるなら、何だってする。
邪魔なやつがいるなら……俺が全部、片づける。だから――」

その言葉を遮るように、私は彼の手を強く握り返した。
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