第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
問題は、この先。
アドルフ様の執務室には、当然のように鍵が掛かっている。
ポケットから細い針金を取り出し、鍵穴へ差し込む。
手元に意識を集中させる。音は、立てられない。
小さな感触。
わずかな抵抗が外れ、錠が静かに回った。
祖父の言葉が、ふと脳裏をよぎる。
『執事である以上、ピッキングくらいはできなければならない』
まさか、こんな形で役立つとは思わなかった。
扉をわずかに開け、滑り込むように書斎へ入る。
すぐに内鍵を掛ける。これで、突然の侵入だけは防げる。
この部屋には何度も入ったことがある。
お嬢様の付き添い、業務の打ち合わせ――
間取りは、頭に入っている。
まず狙うべきは、書斎机の引き出し。
鍵付きの引き出しを一つ、また一つと開ける。
書類の束、古い契約書、覚え書き。
だが――ない。
女性の死因に関するものは、どこにも。
長居はできない。
書類は素早く元に戻す。配置を崩せば、それだけで侵入は露見する。
全てを探す時間など、最初からない。
この部屋にあるとしても、隠されている場所は限られている。
――残りは、どこだ。
鼓動が、否応なく早まる。
考えろ。焦るな。
アドルフ様の執務室には、当然のように鍵が掛かっている。
ポケットから細い針金を取り出し、鍵穴へ差し込む。
手元に意識を集中させる。音は、立てられない。
小さな感触。
わずかな抵抗が外れ、錠が静かに回った。
祖父の言葉が、ふと脳裏をよぎる。
『執事である以上、ピッキングくらいはできなければならない』
まさか、こんな形で役立つとは思わなかった。
扉をわずかに開け、滑り込むように書斎へ入る。
すぐに内鍵を掛ける。これで、突然の侵入だけは防げる。
この部屋には何度も入ったことがある。
お嬢様の付き添い、業務の打ち合わせ――
間取りは、頭に入っている。
まず狙うべきは、書斎机の引き出し。
鍵付きの引き出しを一つ、また一つと開ける。
書類の束、古い契約書、覚え書き。
だが――ない。
女性の死因に関するものは、どこにも。
長居はできない。
書類は素早く元に戻す。配置を崩せば、それだけで侵入は露見する。
全てを探す時間など、最初からない。
この部屋にあるとしても、隠されている場所は限られている。
――残りは、どこだ。
鼓動が、否応なく早まる。
考えろ。焦るな。