第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
ディランside

「オーウェン団長、ここは君の出身だったね」

「はい」

ここは双輝アレキサンドライト王国にも近く、騎士団の中にはここの孤児院出身者もいる。後継のいない貴族が養子として迎えることもあるのだから、騎士団と孤児院のつながりは侮れない。

さて、蒼紋ラピスラズリ伯爵家のマルクがこのボランティアを取り仕切ると聞いたが、どうにも気がかりだ。王国騎士団にもこの孤児院出身者がいる。もしマルクが雑なことをすれば、王国と蒼紋ラピスラズリ伯爵家との関係の悪化もありうる。

あれが次期当主になったら、蒼紋ラピスラズリ伯爵家は終わるだろう。教養もなく、努力もしない。どうにかして次期当主の座から退かせ、ティアナ嬢を当主に据えたほうが、領民や国のためになるはずだ。

一週間前の騒動で、デホラとその娘ニーナは財産も地位も剥奪され、辺境の地へ送られた。
正直、毒殺未遂の罪で死刑にしてもよかったと思う。
しかし、それではティアナ嬢の心を傷つける。あえて手を下さず、結果を見守ることにした。

思い返せば、10年前から密かに渡していた本が、今や執事によってティアナ嬢に届けられていたと知り、さぞ驚いただろう。
口の堅そうな執事も、10年の時を経てそろそろ時効と判断したのだろうか。

だけど…10年分の想いを、彼女はまだ知らない。


しかし、あの執事は誠実で、何よりティアナ嬢への忠誠心が強い。彼女を守ろうとするその心意気は、何者にも揺るがない。
良い執事だ。
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