ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第63話

 バレンタインから数日が過ぎた頃。
 私は、美容院に来ていた。

 最後のテストが終わった解放感も手伝って、鎖骨下まで伸びていた髪を肩のラインまでばっさりと切ってもらったのだ。
 床に落ちていく自分の髪を見つめていたら、頭だけではなく、沈んでいた気持ちも少しだけ軽くなっていくような気がした。

 今日はこれからキャンパスに向かい、最後のレポート課題を提出したら、いずみと会う予定だ。

 ◇

 無事に課題の提出を終え、待ち合わせのサークル部室のドアを開けると、先に着いていたいずみがパッと顔を上げた。

「お疲れーっ!」

「いずみは今日が最後だったんだよね。お疲れさま!」

「うん、やっと解放された! っていうか美絵、髪切ってる〜! かわい〜!」

 駆け寄ってきて私の髪を触る彼女に「へへ、ありがとう」と返す。


 部室には私たちしかおらず、持ち寄ったお菓子を広げてのお喋りが始まった。

 ホワイトボードには『一年お疲れ様でした! バレーを観に行こう!』と、来週末のスポーツ観戦イベントの告知がデカデカと書かれている。

「ねえ、美絵。あれ行けるのー?」

 いずみがポテトチップスをかじりながら指差した。

「うーん……バイトは入ってないんだけどね。どうしようかな」

 ちなみに祥ちゃんはコーチのアルバイトが忙しくなるらしく、不参加だと言っていた。
 決めかねて曖昧に返事をする私を見て、いずみは少し心配そうな顔をした。

「バレンタインのこと……引きずってたりする? だからあんまり遊ぶ気になれないとか」

「えっ……」

 いずみには、あの日祥ちゃんの部屋で起きた『クラスの子からの義理チョコ(多分本命)事件』を軽く相談していた。

 結局あのチョコレートは、翌日丁重にお返ししたらしいけれど。
 それでも、私の中に芽生えた『祥ちゃんは、彼女がいてもアプローチされるのか……』というモヤモヤは、完全には消え去っていなかった。

「うーん、そうなのかな……」

 自分でもはっきりとしない気持ちを持て余している。


 その時。
 ガチャ、と乱暴に部室のドアが開いた。


「おー! お疲れー! 二人ともテスト終わったー?」

 入ってきたのは、見慣れた大きなリュックを背負った正人くんだった。
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