ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~
「…………」
「…………」

 二人きりになり、夜の通りに少しの沈黙が落ちる。
 そっと見つめ合うと、思いがけず会えた嬉しさがこみ上げてきて、自然と顔がほころんだ。

「……髪、切ってる」
 祥ちゃんが、甘く溶けるような優しい目で私を見る。

 さっき正人くんが言っていた『デレッデレ』という言葉を思い出し、照れてしまう。

「あ……うん、切ったの! ……ていうか、ごめんね。祥ちゃんまだテストあるんだよね? 忙しかったのに……」
 急に申し訳なくなって焦る私に、祥ちゃんは首を横に振った。
「いや、重要なやつは全部終わってて、残ってるのは軽いやつだから大丈夫だよ」
「あっ、そうなんだ……よかった」
 ホッと胸を撫で下ろす。

 すると、祥ちゃんが一歩私に近づき、珍しく少し意地悪な笑みを浮かべた。

「……で、どこに送っていけばいい?」

「えっ……」

 突然の問いかけに、戸惑う。
 明日はたしかお互い休み。
 せっかく会えたのだから、まだ一緒にいたい。
 でも、明後日にテストが残っている彼を振り回すのも悪い気もする……。

 私は少しだけ口を尖らせて、彼を見上げた。

「……祥ちゃんの、送っていきたいところ」
 意地悪には、意地悪で返してみる。

 私のその返しを聞いた瞬間、祥ちゃんは「ふっ」と吹き出し、たまらないというように目を細めた。

「……やり返された」

 そう呟いて、彼は私の右手をそっと、けれど力強く握りしめた。

 そして、駅とは反対の方向——彼のマンションがある方へと、温かい手で引いて歩き始めたのだった。
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