ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
美絵と二人きりになる。
向かいに座った彼女は、やはり曇り顔のままだ。
「……同じクラスの人? 篠……なにさん?」
少し遠慮がちな声で尋ねられる。
「……あ、『志乃』は下の名前で。苗字は『伊藤』なんだけど、クラスに伊藤がもう一人いて……みんなから下の名前で呼ばれてる」
そう説明すると、美絵は小さく「名前で呼んでるんだ」と呟き、視線を落とした。
「……美絵もサークルの男子とか、名前で呼んでる人もいるし、あんまり気にしないかなと思ったんだけど……」
沈んだ反応に少し焦って、つい言い訳のような口調になってしまった。
「うん……そうだよね」
力なく返され、二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「……美絵?」
「…………」
「……志乃も教師目指してて、教職課程のこととか詳しくて、色々と教えてくれてるだけだからね」
慌ててフォローすると、美絵は小さな笑顔をつくった。
「あ……うん。大丈夫だよ」
なんだろう。
以前なら、もっと素直に、軽い感じでやきもちを焼いたり不満を伝えてくれたりしていた気がする。
最近は、気になって問いかけても『なんでもない』とか『大丈夫』という言葉で、自分を納得させているように見えることが増えた。
僕としては、溜め込まずに何でも言ってくれたほうがいいのだけれど――。
知らず知らずのうちに何か無理をさせていないか、心配になる。
「……私、もうバイト行くね」
まだ会えたばかりなのに、彼女はそう言って立ち上がった。
「……あ、わかった。……いってらっしゃい」
そのまま、急ぎ足でカフェテリアを出て行ってしまった。
明らかに「大丈夫」じゃなさそうだったけれど――バイトに行くというのを引き留めるわけにもいかず、ただ見送ることしかできなかった。
遠ざかっていく美絵の小さな背中を見つめる。
胸の奥に、じわじわと嫌な不安が広がっていくのを感じていた。
しばらくして、僕もバイト先のファミレスへと向かった。
バックヤードに着いても、やはりさっきの様子が頭から離れない。
ロッカーの前でスマホを取り出し、『バイトのあと、少し話せる?』とだけメッセージを送っておいた。
画面を閉じ、ふうっと深呼吸して、なんとか気持ちを入れ替える。
制服に着替え、喧騒が渦巻く店内へと出て行った。