ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
第70話
授業が終わった私は、机の上のテキストやペンを鞄にしまっていた。
ふと、前の席に座っていた千尋さんが、出口に向かって歩いてくるのが見えた。
なんだか浮かない顔をしている。
千尋さんはスポーツ観戦サークルの先輩で、同じ史学部の四年生。
この授業は必修ではなく、何年生でも受けられる内容なので色々な学年の人がいる。
珍しく、カッチリとしたリクルートスーツを着ていた。
「……あっ、美絵! 美絵もこれ受けてたのね〜」
私に気づき、少し表情を緩めながら声をかけてくれる。
「お疲れさまです! 千尋さんもでしたか」と挨拶した。
千尋さんはサークル内で唯一同じ学部ということもあって、これまでも授業の履修登録やテストの過去問のことで何度もお世話になっている。
ややおっちょこちょいなところはあるけれど、優しくて喋りやすい先輩だ。
「美絵、この後どこ行くの?」
一緒に出口まで歩きながら尋ねられた。
スマホをチラッと確認すると、待ち合わせをしている祥ちゃんから『カフェテリアにいるよ』とメッセージが入っている。
「カフェテリアに行きます」と答えると、千尋さんは「私、学務課に用があって。途中まで一緒に行こ〜」と言ってくれた。
「……はあああっ」
途端に、千尋さんは肩を落として長いため息をついた。
そしてすぐにハッとしたように「あっ、ごめん……」とこちらを見た。
「……どうかしたんですか?」
「いやー、就活が憂鬱でさ。面接とか全然上手く喋れないのに、周りの子たちはすごくちゃんとしてるように見えるし……。まだ焦る時期ではないってわかってるんだけど、もう内定もらってる同期もいてさあ……」
「そうなんですね……」
私も二年後には向き合わなきゃいけないことなんだな、と思いながら「うんうん」と話を聞く。
「今のところ第一志望は〇〇商事ってところなんだけど、OB訪問のツテもないし、全然情報得られなくて。もっと人脈づくり頑張っておけばよかった……あっ、ごめんね。私、愚痴ばっかり……!」
「全然いいですよ。……あの、第一志望って、どうやって決めたんですか?」
気になって聞いてみると、千尋さんは「うーん」と少し真面目な顔になった。
「史学部はやっぱり、大学でやってきたことと就職を直接結びつけるのは難しくて。だから私は半年くらい前に、『学業は学業で頑張る。就職は就職で、行きたいところを見つけよう』って割り切って決めたかな? とにかくいろんな会社を見てみて、企業理念に一番共感できたのが〇〇商事なの!」
「理念に共感……」
「そうそう! 自分のやりたいことと会社の目指す方向が同じだと、頑張れそうじゃん?」
(そっか。千尋さんのような考え方もあるんだ……)
ハッとさせられた。
必ずしも大学で学んだことを仕事にしなくても、自分の道を見つけて進んでいくことができるんだ。
そうこう話をしているうちに、学務課の前に着いた。
「ありがとー。美絵と話して癒されて、ちょっと元気出た!」
「私こそ、色々聞かせてもらってありがとうございます。千尋さんが落ち着いたら、また教えてもらいたいです」
「もちろん! 為になること教えられるように頑張るっ」
スーツ姿の千尋さんは、両手でガッツポーズを作って笑ってくれた。
ふと、前の席に座っていた千尋さんが、出口に向かって歩いてくるのが見えた。
なんだか浮かない顔をしている。
千尋さんはスポーツ観戦サークルの先輩で、同じ史学部の四年生。
この授業は必修ではなく、何年生でも受けられる内容なので色々な学年の人がいる。
珍しく、カッチリとしたリクルートスーツを着ていた。
「……あっ、美絵! 美絵もこれ受けてたのね〜」
私に気づき、少し表情を緩めながら声をかけてくれる。
「お疲れさまです! 千尋さんもでしたか」と挨拶した。
千尋さんはサークル内で唯一同じ学部ということもあって、これまでも授業の履修登録やテストの過去問のことで何度もお世話になっている。
ややおっちょこちょいなところはあるけれど、優しくて喋りやすい先輩だ。
「美絵、この後どこ行くの?」
一緒に出口まで歩きながら尋ねられた。
スマホをチラッと確認すると、待ち合わせをしている祥ちゃんから『カフェテリアにいるよ』とメッセージが入っている。
「カフェテリアに行きます」と答えると、千尋さんは「私、学務課に用があって。途中まで一緒に行こ〜」と言ってくれた。
「……はあああっ」
途端に、千尋さんは肩を落として長いため息をついた。
そしてすぐにハッとしたように「あっ、ごめん……」とこちらを見た。
「……どうかしたんですか?」
「いやー、就活が憂鬱でさ。面接とか全然上手く喋れないのに、周りの子たちはすごくちゃんとしてるように見えるし……。まだ焦る時期ではないってわかってるんだけど、もう内定もらってる同期もいてさあ……」
「そうなんですね……」
私も二年後には向き合わなきゃいけないことなんだな、と思いながら「うんうん」と話を聞く。
「今のところ第一志望は〇〇商事ってところなんだけど、OB訪問のツテもないし、全然情報得られなくて。もっと人脈づくり頑張っておけばよかった……あっ、ごめんね。私、愚痴ばっかり……!」
「全然いいですよ。……あの、第一志望って、どうやって決めたんですか?」
気になって聞いてみると、千尋さんは「うーん」と少し真面目な顔になった。
「史学部はやっぱり、大学でやってきたことと就職を直接結びつけるのは難しくて。だから私は半年くらい前に、『学業は学業で頑張る。就職は就職で、行きたいところを見つけよう』って割り切って決めたかな? とにかくいろんな会社を見てみて、企業理念に一番共感できたのが〇〇商事なの!」
「理念に共感……」
「そうそう! 自分のやりたいことと会社の目指す方向が同じだと、頑張れそうじゃん?」
(そっか。千尋さんのような考え方もあるんだ……)
ハッとさせられた。
必ずしも大学で学んだことを仕事にしなくても、自分の道を見つけて進んでいくことができるんだ。
そうこう話をしているうちに、学務課の前に着いた。
「ありがとー。美絵と話して癒されて、ちょっと元気出た!」
「私こそ、色々聞かせてもらってありがとうございます。千尋さんが落ち着いたら、また教えてもらいたいです」
「もちろん! 為になること教えられるように頑張るっ」
スーツ姿の千尋さんは、両手でガッツポーズを作って笑ってくれた。