ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
 ◇

「……なんでだよ」

 小さくツッコミを入れる。
 連れてこられたのは、大学の近くにあるカラオケボックスの薄暗い部屋だった。

「たまには歌いながらランチしよーぜー」

 正人はメニュー表をパラパラと眺めながら、器用に備え付けの電話を肩と頬で挟んでいる。

「あ、すいません。唐揚げとポテトと、あとコーラふたつ……」

 僕の声になど聞く耳を持たず、注文を終わらせてしまった。

 料理が届く前から、正人はタブレットを操作して、好き勝手に自分の歌いたい曲を入れ始めた。
 マイクを握って熱唱する合間に、「おい、祥太郎も早く入れろよー」と急かしてくる。

「え……」

 急に言われても戸惑う。
 カラオケ自体あまり来ないし、上京してからは一度も来ていない気がする。
 最後に何を歌ったかも思い出せない。

 そうこうしているうちに、次の曲のイントロが流れ始めた。

(……懐かしい)

 中学生の時に流行っていて、よく聴いていた曲だ。
 好きな女の子への届かない想いを、明るいアップテンポのメロディに乗せて歌っている。

『彼女の笑顔が 僕に向けられたらいいのに』

 そのフレーズは正直、当時の僕の心に刺さりまくっていた。

 そしてこの前、家に美絵が遊びに来て、一緒に歌番組を観ていた時。
 この曲が流れて、彼女が小さく口ずさみながら、「懐かしいね」と微笑みかけてくれた。

 あの陽だまりのような笑顔が、鮮明に脳裏に蘇る。

 ――『祥ちゃん』

 あの顔はもう、僕には向けられないんだろうか。
 他の誰かのものになるんだろうか。

 そう思った瞬間、視界が滲み、一筋の涙が頬を伝ってしまった。
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