ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
踏み込んだ距離と、名前を呼び合う魔法

第27話

 合宿から二週間が過ぎた、八月下旬の土曜日。
 立秋を過ぎたとはいえ、太陽はアスファルトの表面に容赦なく照りつけていた。

 東京近郊の駅から十五分ほど歩いた先にある、河川敷のグラウンド。
 日傘を持つ手がじっとりと汗ばみ、首筋を伝う雫がワンピースの襟元へ吸い込まれていく。

 川面から吹いてくる風には、水草の青臭さと、乾いた土の匂いが混じっていた。
 上京してから初めて嗅いだ、懐かしい土手の香り。


『前に言ってた少年野球の練習、来週末の午後にあるんだけど、もし予定空いてたら見に来ない?』

 合宿から帰った翌日の朝。
 泥のように眠って目を覚ました私を待っていたのは、瀬川くんからのメッセージだった。

 肩を借りて寝てしまったり、夢現のせいで大胆なお願いをしてしまったことで――どんな顔をして話せばいいのか悩んでいたけれど。
 そのメッセージを見た瞬間、心は一気に夏の空へと舞い上がった。

 練習を見に来てもいいと言ってくれたのは、社交辞令だったかもしれないと思っていたけれど。
 彼がそれを覚えていてくれたこと、そして本当に誘ってくれたことが、たまらなく嬉しかった。


(……あ、見えた)

 土手を上りきると、視界が開け、緑色の芝生と茶色い土のコントラストが目に飛び込んできた。

 キン、という金属バットがボールを弾く甲高い音と、まだ声変わりしていない少年たちの甲高い声が、ジリジリと鳴る油蝉の声に重なって響いている。

 トクン、トクンと、心拍数が上がっていくのを感じた。

(二週間ぶりに……会える)

 自覚したばかりの「好き」という気持ちは、会えない間に、どうしようもなく大きく育ってしまっていた。

 グラウンドの脇にはしっかりとしたテントがあり、その下には折り畳みベンチがいくつか置いてある。
 保護者のお母さまたちが、数人いらっしゃるようだ。
 私は日傘を少しすぼめ、「こんにちは」と小さく会釈をしながら、端にそっと混ざった。

 視線は自然と、グラウンドの中へと吸い込まれる。
 砂埃が舞う中、背番号が書かれたユニフォームを身につけた少年たちが、元気に走り回っている。

 そして、その中心に――。
 グレーのキャップを目深に被り、白いTシャツにジャージ姿の彼がいた。

「……っ」

 遠くからでもすぐにわかる、広くて真っ直ぐな背中。
 ホイッスルを首から下げ、眩しそうに少年たちのプレーを見守っている。

 合宿の時に見た、無防備に寝ていた彼とは違う、真剣で、どこか凛とした指導者の顔。

 見つけた瞬間、息をするのも忘れるくらい、目が離せなくなった。
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