ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
「……ちょっと、調べてみよ」
鞄からスマホを取り出し、机の下でこっそりと検索画面を開いた。
『大学生 カップル 進展 ペース』
いくつかの恋愛コラムやアンケート記事をスクロールしていく。
画面の青白い光が、私たちの真剣な顔を照らす。
「ええと……『大学生カップルが最後のステップまで進むのは、付き合ってから二〜三か月が多い』……」
「ほらー! やっぱり早いよ、うちの彼氏!」
いずみが声を潜めながらも、頭を抱えて机に突っ伏した。
「どうしよう。彼のことはもちろん好きなんだけど、不安もある。自分の気持ち、ちゃんと伝えたほうがいいのかなー。でも、嫌われたらどうしよう……うーん……」
唸り声を上げる彼女の背中を、今度は私が優しくさする番だった。
しばらく机に額を付けていたいずみは、ふと顔の向きを変え、少し遠慮がちな上目遣いで私を見た。
「……美絵と祥太郎くんは……まだ?」
「えっ!?」
予想外の矢印の向きに、声が裏返る。
「ま、まだだよ! 私たちなんて、この前ようやく……えっと……だから、うん」
しどろもどろになる私を見て、いずみは何かを計算するように宙を見つめた。
「もうすぐ付き合って二か月とかだよね。一般的なデータに当てはめると……じゃあ、そろそろなのかな?」
「そ、そうなの……?!」
彼女が急に「あ、そういえば!」と、手をポンッと叩いた。
「こないだ、サークルの部室でまさとんが騒いでなかった? 『もうすぐ祥太郎の誕生日だ』って」
「うん……プレゼント、もう買ったよ」
やや照れながら頷くと、いずみの顔がパアッと明るく輝いた。
「キャーッ! 絶対、そういう特別なイベントの時に何か起こるじゃん!」
パシパシッ! と、遠慮のない強さで私の背中を叩く。
「ちょっといずみ……声大きいから……!」
周囲の学生たちの視線をごまかすように縮こまりながら、急に早鐘を打ち始めた自分の心音を聞いていた。
祥ちゃんの誕生日。
二人きりでお祝いする、特別な日。
正直なところ、私にとっての祥ちゃんは『究極の安全地帯』だ。
彼といて、怖い思いをするとか、そんな不安は一切ない。
彼はいつだって私を最優先に考え、大切に扱ってくれる。
でも――。
いずみとの会話でリアルな『その先』を意識してしまった途端、私の内側に、これまで経験したことのない新しい種類の緊張感がふわりと舞い降りていた。
安全地帯にいるはずなのに、足元が少しフワフワとするような、甘い浮遊感。
「あ、やっと来た」
いずみの声で顔を上げると、前方の扉から、分厚い資料を抱えた教授が申し訳なさそうに苦笑いしながら入ってくるのが見えた。
教室のざわめきが、潮が引くようにスッと静まる。
ノートにペンを走らせる準備をしながら、彼に渡すプレゼントの箱を思い浮かべ、密かに深く息を吸い込んだ。