アースシールド♾️〜地球を守る天才少女は「好き」をまだ知らない〜

特異型出現!?

ーーギイイイ。

 演習場の中に入ると、鉄の扉が閉まった。

「永久さん、5分でどう攻略するかを練りましょう。その後、隕石の破壊です」

 低めの木の上に飛び乗って、走って演習場の奥へ向かう受験者を眺める。

「中型からだな」

 後から木に飛び乗った永久さんも受験者たちに目を向けていた。

「はい。4時間の中で体力もある程度温存するなら、中型から破壊しましょう」

「俺とお前なら大型を30分で倒せると思うが、4時間あるからな。体力の消耗が激しい大型は避けよう」

 永久さんの顔を見ると、私の目に焦点を合わせた。
 私なら大型を20分でやれる…ということは言わなくていいか。

「残り時間が30分を切ったら、小型を倒し、数を稼ぐのはどうでしょうか」

「それでいこう」

 お互いを見合い、こくんと頷いた。

「この演習場の面積は5000万㎡。全範囲はとてもじゃないけど回りきれない。受験者たちは、中央に一気に走っていったので東か西の壁面から攻めましょう」

 少しの沈黙の後、目を瞑っていた永久さんが目を開ける。

「東だな」

 東…。
 西にはトシとココちゃんが向かったからか。

「行こう」

 同時に木から飛び降り、東側に一気に走り出す。
 永久さんとはスピード感も合うな。
 一次試験の出来はあまりよくなかったのかもしれないけど…実戦なら最高の相性かもしれない。
 もしや、父と同じでわざと一次試験の点数を調整したってことも…それはないか、永久さんは真っ直ぐな人だ。
 しばらく走ると、赤く燃える隕石がいくつも落ちていた。
 小型なのでスルーして進む。

ーータッタッタッタ。

 私たちふたりの足音が静かな森に響いた。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

「お前はきょうだいがいるのか」

 中型を倒しながら、しばらく走ると、無言だった永久さんが森に視線を向けたまま口を開く。
 私の家族構成にでも興味があるんだろうか。
 それとも、天城一族のことを知ったかーー。

「いいえ。きょうだいはいません」

「じゃあ、一次試験の帰りに待ち合わせてたのは彼氏か?」

「え…え!? 違います。ただの幼馴染です」

 月が私にくっついて回るから誤解されたのか。

「そうか」

 少しの沈黙の後、短く永久さん呟く。

「なんでそんなこと聞くんですか」

「随分、親しげだったからな」

 永久さんの声が少し冷たく聞こえた気がしたけど。
 横顔はいつもの無表情だな。

「親しいというか…小さい頃からずっと一緒できょうだいみたいなものです。永久さんはきょうだいは?」

「戦争で死んだ。……妹も父親も母親も」

 え…永久さんは第一次宇宙戦争で家族を亡くしたってことか?
 頭がぐるぐるして、思わず足を止めてしまう。
 数年ずっとひとりだったのだろうか。
 父と母を失った日のことを思い出す。

『ねえ、お父さん、お母さん。保育園の先生にね、どんな人になりたいですかって聞かれたの』

『糸はどんな人になりたいの?』

『うーん、強くなりたい。でもお父さんとお母さんはどうなってほしい?』

『お母さんは糸に思いやりのある人になってほしいな』

『思いやりのある人?』

『うん。相手の立場になって考えられる人のことだよ。そういう人をお母さんは強い人だと思う。ね? お父さん』

『父さんも母さんと同じ意見だな』

『どうやったらなれるの?』

『自分がこうしたい!って思ったときに、立ち止まって考えてみるの。相手はどう思ってるかな? 私がしたいと思うようにして嫌じゃないかなって』

『わかった』

『ははは、糸は素直だな〜。じゃあ、お父さんとお母さんは任務に行ってくるよ』

 思いやりの話を玄関先で話した日、父と母は帰らぬ人となった。
 辛かった。苦しかった。
 強くなれないと思った。 
 思いやりのある人になっても父と母はいないのだから。
 そして、私も今すぐ死んでしまいたいと思った。
 でも、私のことをお祖父様が、お手伝いさんたちが、月と円が思いやりを持って導いてくれた。
 そのおかげで今があるんだ。
 永久さんはひとりだったのか。
 どんなに辛かっただろう。
 心がえぐられるように痛い。

「悪い、そんな顔しないでくれ」

 俯く私に気づいた永久さんが、方向転換して走り寄る。
 私の肩に手を置き、トントンっと叩いて「もう自分の中で消化していることなんだ」と添えた。

「……永久さんの心の傷は、想像できないほど辛かったでしょう。私はまだまだ思いやりが足らない人間です。ちっとも強くなれていません」

 なぜ父と母の言葉を思い出したのだろう。
 永久さんの瞳を見つめながら、なぜか、涙が頬を伝った。

「お、おい。お前が泣くことじゃないだろ」

 初めて見た永久さんのオドオドした姿。

「…申し訳ありません」

 月と円の前でも泣いたことがないのに。
 なぜこんなに胸が締め付けられるのだろう。
 腕で涙を拭おうとすると、スッと永久さんの手が伸びてくる。

「泣くな、糸ーー」

 永久さんの優しい手が私の頬を触り、親指で涙を拭った。
 上を向くと視線がぶつかる。

「……今日は、私が永久さんのペアです。そばにいます。だから…その…背中…預けてください」

 驚いた表情をして、無言になった永久さん。
 なにか、おかしなことを言ってしまっただろうか。
でも、この人を思いやりたい。
 この人と強くなりたい。

「どうしました?」

「いや、なんでもない。ありがとう。そんなこと言われたことがなくて戸惑った」

 永久さんは私から目を逸らして、少しの間、地面を見ていた。

ーードンッ!!

 そのとき、地面が跳ねた。
 ヒビの入った岩のすき間から、ぬるり、と黒いものが動く。

「来たか…」

 熊ほどの大きさの宇宙生命体だ。
 中型。
 しかも多数。

「右から三体は俺がやる」

「左の三体は任せてください」

 腕を振り、剣で生命体をはじき返す。

ーーカキーン。

 森の木漏れ日によって剣が光る。
 一体、二体!
 三体目!

ーーシュルルルル。

 生命体は、黒い粒子になって消えた。

「よし、この調子——」

 そのときだった。

ーーズズ……ズズズ……!!!

 地面が鳴った。
 咄嗟に永久さんと背中合わせになって状況を把握する。
 この先に何か…いる…。

「…行くぞ」

 永久さんとともに、音の方向へと走る。
 地面が鳴ったであろう場所に近づくと、さっきより、はるかに大きな隕石が目の前に現れた。

「……え?」

 これ、大型を超えている。

ーードドドドーン。

 地響きの方に目をやると、塔みたいに巨大な宇宙生命体と戦うペアの姿が見えた。

「何コイツ! 強すぎ! 月! なんとかして!」

「るせえ! 今考えてんだよ!」

 生命体はうねり、体についたいくつもの目を光らせている。
 さっきまでとはまるで違う。

「……あれは大型を超えてる」

 あまりの大きさに、永久さんの表情でさえも引きつっていた。

「月!」

私は思わず声をあげた。

「幼馴染か」

「はい。奴は私が引き受けます。その間にあのふたりと作戦を」

「ラジャ、頼んだ」

 二手に分かれる。
 私は力強く足を踏み切ってジャンプした。
 スーツの効果で5メートルほど跳び、巨大生命体に刀を振り下ろす。

ーーキイイイイイイイイイ。

 生命体が雄叫びを上げる。
 恐竜のようなごつごつした分厚い肌をしていた。
 剣はあまり効かないか。
 強さが桁違いだ。
 お祖父様と出向いた演習で、この剣で倒せなかった大型はほとんどいない。
 これは、特異型だーー。
 隊員の中でも下っ端の人には倒せない階級の生命体。
 この試験、何かあるーー。

「永久さん! 月! コイツは大型じゃない! 特異型だ!」

 大きな声で状況を伝えた。

「物体が固い。急所を見つけて、一発で仕留めるしかない!」

「素早さはないな、一度引こう!」

 永久さんの声を受けて、3人のいる方向に全速力で向かう。

ーーグオオオオオオ。

 追いかけてくる巨体は、大きいだけでスピードがない。
 隠れられそうな洞窟を見つけて全員で避難する。
 あの巨体では、ここの中には入ってこれないだろう。

「糸、大丈夫か? あいつ…やべえな」

 すぐさま私に駆け寄り、乱れた髪を整える月。
 「大丈夫だから」と、月の手を取って、頭から離した。
 いつものことだが、なんとなく永久さんに見られたくない気がした。
 全員がやっと一息ついた様子で地面を見ている。

「トワ様、助けてくださってありがとうございます♡」

 片や女の子の方は、妙に永久さんに愛嬌を振りまいているな。

「礼なら、糸に言え」

ーードキッ。

 永久さんにまた"糸"と呼ばれて心臓が跳ねる。
 さっきはご家族の話を聞いていてあまり意識していなかったが、なんだこの気持ち。
 えー!と口を詰むんでそっぽを向く女の子を横目に私と永久さんと月は自然と3人で円になる。

「さっきはありがとな。サキもなんとか言えよ!」

 月が私と永久さんに頭を下げた。

「天城糸になんて、お礼を言いたくないわ! トワ様がいたから逃げる選択肢ができたんですもの!」

「サキ! いいから」

「うるさいなー。ありがとうございましたー」

 ムスッとしながら棒読みでお礼を言って、3人の輪に加わるサキさん。
 サキさんがしゃがむと、それに合わせて全員がその場に座った。
 さっきの巨体にビビってるかと思えば、肝が据わってるな。
 それに永久様って。
 でも確かに。
 永久さんは、白馬の王子感あるかもしれない。
 あの顔で言い寄られたら女子は悶絶するだろう。

「あの巨体がいくらのろくても、そんなに時間は稼げないので、手短に自己紹介をしましょう。作戦はその後に」

 こくんと首を縦に振った永久さんが話し始める。

「俺は金縄永久。14だ。持久力と戦法には自信があるが、パワータイプではない」

「天城糸です。12歳。月とは幼馴染です。一度見たものは忘れません。パワー、スピード、忍耐力、全て自信があります」
「俺は、黒羽月! 糸と同じ年で、俺はスピードと体術なら糸にも負けない。体力もある方だ」

 そして、少しの間の後、女の子が口を開いた。

「白谷サキよ、14歳で試験を受けるのは初めて。家の方針で14歳までは受けられなくて。我が一族は毒使いなの、やつは毒を効かせるには肌が厚すぎるわね…」

「3人の情報を念頭に、あの巨体の攻め方を提案します」

 木の枝で地面に大きな丸を描く。

「これが、あの巨大生命体です」

「で、ここか」

 月が、丸の横にバツをつけた。

「そう、急所」

 私の顔を見て、月と永久さんがこくんと首を縦に振った。

「近づくと、首の後ろあたりを守っているように見えた。だから——」

 「「「「背後から攻める」」」」

 4人の声が重なった。

「だったら、誰かが走って、気をひくしかねえな」

 月が立ち上がって私の背中をポンと叩いた。

「俺が囮になる」

「月、囮なら私が…」

「糸、ここは月に囮になってもらおう。お前はパワーもあるし、首の後ろを切るなら糸が適任だ」

「俺にまかせろ!」

 月が強くこぶしをにぎった。
 サキちゃんは少しだけ首をかしげている。

「…もし、囮だと気づかれたら?」

 一斉にしんと静まり返った。

「……囮は2名必要だ」

「ふたり?」

 サキちゃんが不安そうに聞く。

「月と俺でいく」

 永久さんは、小さな丸を二つ描いた。

「敵は、動きが遅くて反応もにぶい」

 私が言うと、永久さんが続ける。

「だから、選ぶのに、少し時間がかかる。ちょこまかと動けば、囮だと気づくのも遅れるだろう」

「その、少しがほしいです。私はそれでヤツを叩けます。必ず」

ーーグオオオオオオ。

 4人で顔を見合わせた。

「もう来たか」

「月、同時に出よう。俺は右へ」

「わかった、俺は左だな」

「サキは、糸に合図を出せ。ふたりに夢中になった瞬間に糸が首を取る作戦だ」

ーードンッ!

 巨体の腕が地面を叩いた。

「行くぞ」

 永久さんと月が一緒に洞窟を出た。

「私もタイミングを見計らって外に出ます、サキさんはここで様子を伺ってください。草笛は慣れせますか」

「え!? うん、た、たぶん」

 草笛に適したツバキの葉をサキさんに渡す。
 演習場に入ってすぐに、何かに使えるかもとポケットに入れておいたもの。

「お願いします」

 サキさんをおいて、私は洞窟を飛び出した。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

「くっ……!」

 月が、後ろに下がった。
 胸がどくん、と鳴る。
 …おかしい。
 やっぱり、この生命体、強すぎる。
(ケースNo.3695、特異型、音は聞こえない、弱点:首後ろ)
 父と母の戦闘記録とこの巨体の特長を照らし合わせる。
 そのときだった。

「糸! 後ろ!」

 永久さんの声が、風のように飛んできた。
 振り向くと別の黒い影が、すぐそこまでせまっていた。
 巨体に集中しすぎて、意識が向いてなかった。

ーーカキーン。

 一撃を喰らわせて、距離を取る。
 中型か。

「永久さん、私はこいつをやります。サキさんには草笛を頼んであるので。その巨体は音は聞こえないタイプの特異型です」

 息を整えながら、周りを見た。
 月は、ずっと逃げ回っているから限界寸前だ。
 永久さんもいつまで持つかわからない。
 そのとき、私の視界が紫の糸のようなものに包まれた。

「糸ちゃん、遅くなっちゃってごめんね」

 ココちゃんの小さな背中だ。

「待たせたな! 円の舎弟!」

 トシ…待って、円の舎弟はあなただと思うけど。

「ココちゃん、トシ…」

ふたりの背中が、もうひとりで戦わなくていいと思わせてくれる。

「ここは、俺とココでやる! 巨体の方に行ってやれ!」

「…ありがとう。任せた」
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