アースシールド♾️

目覚め

 鶴先生が残り一体を片付けた。
 私とココちゃんと永久さんは、強張っていた体をやっと緩めた。
 鶴のような美しい見事な一撃だったな。

「糸、永久。大丈夫だった?」

 鶴先生の優しい声に、改めて安堵する。
 それから、私と永久さんは、《子》と《巳》のこと、神先生が狙われていること、十二凶の計画、彼らが宇宙人を操っていることなどを簡潔に話した。

「……そうなのね」

 鶴先生が難しい顔をしている。

「何か気になりますか?」

「……うん、糸には話しておいた方がいいわね。ココ、永久も聞きなさい。二次試験の試験官だった、緑色の髪をした人は……私のペアだったの」

「え……ということは……」

 足がガクガクと震える。
 鶴先生が発する言葉に集中して口を見た。

「そう……恭さんの教え子よ」

 きょ・う と言ったと口の形でも認識する。
 父の教え子から、組織に反旗を翻す者が現れてしまったのかーー。
 こんなこと……あってはならない。

「……組織から反逆者が出たってことですか」

 永久さんが鶴先生に確認する。

「……ええ、そういうことになるわね。私は本部に報告に行くから、あなたたちは今日はもう休みなさい」

「そんな……」

 ココちゃんは鶴先生を心配しているのか、不安げな顔だ。

「……鶴先生」

 自分のペアが反逆者になったのだ。
 こんな辛いことを……鶴先生の口から言わせなければいけないなんて。
 やりきれない。

「大丈夫よ、糸」

 私の気持ちを理解したかのように、鶴先生が肩をポンと叩いた。
 グッと唇を噛む。

「糸! 永久! ココ! 鶴ちゃん!」

 全員が一斉に声の主に顔を向ける。
 
「「神先生!」」

 生きてる……!
 よかった……!
 私と永久さんは、駆け寄ってくる神先生に勢いよく抱きついた。

「どうしたどうした! あれ〜? 俺、モテ期きちゃった感じ?」

 いつも通りにおどける先生。
 ぎゅっとしがみつきながら、背中をバシバシ叩く。
 《子》と《巳》は、神先生を追っていたが、会わなかったのだろうか。
 何にせよ、神先生が無事でホッとする。

「痛い痛い〜! どうしたんだよ、糸と永久は! 赤ちゃん返りかい? ははは」

 はははと笑う神先生に、心配させんな!という気持ちで、さっきよりも強く背中を叩いた。

「心配させないでください!」

 驚くほど大きな声を出した永久さん。
 相当心配していたのだな。

「ごめんごめん。心配させちゃったね。大丈夫だよ、俺は死なない。絶対に」

 私と永久さんの背中を優しくさすってくれる神先生の手。
 あたたかいな。
 神先生に抱きついたまま、後ろを振り向くと、ココちゃんが微笑んでいた。
 鶴先生はやはり強張った顔をしている。
 その様子を見ながら、神先生が言いにくそうに話し始める。

「鶴ちゃん、緑を捕獲したよ。いや、緑じゃないか。今は《巳》と名乗っているんだったね」

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 神先生と鶴先生が行ってしまった後。
 何となく道の真ん中から動けなかった。
 ココちゃんも永久さんも同様に。

 これからどうなるんだろうか。
 神先生は《子》を取り逃したと言っていたから、捕まったのは《巳》のみ。
 ヤツから十二凶のことを聞き出す他ないが……神先生が狙われていることに変わりはない。

ーータッタッタッタッ!

「糸!」

 全速力でトシが向かってくる。
 私たちの前で立ち止まり、手を膝に乗せて「はあはあはあ」と息を切らしていた。

「そんな急いでどうした?」
 
「月が……!」

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

「「月!」」

 私と永久さんが同時に叫ぶ。
 ココちゃんは「月くん…」と涙を浮かべた。
 ベッドが起こされ、月の顔が見える。
 月は左手を少しあげた。
 まるで「おう!」と言ってるかのように。
 トシ、ココちゃん、私、永久さんの順で、集中治療室のガラスの前に立つ。

「糸、毎日来てたんだろ! ほんと、よかったな!」

 トシがニカっと笑う。
 すると、月を担当している医療班の人が私たちのところまで来てくれて、月の状態を説明してくれた。
 それから少し経つと、月が意識を取り戻したからか、医療班が慌ただしくなり、血圧を測ったり、点滴を変えたり、月の周りを忙しなく動いていた。

「糸ちゃん、月くん……生き返ったよ……」

 まだ信じられないようで、ガラスにへばりつくココちゃん。

「おい、ココ! 月は死んでねえぞ!」

 トシがココちゃんにツッコミを入れて、みんなでくすくす笑う。
 同期で笑い合えたのはいつぶりだろうか。
 ああ……月が意識を取り戻して、本当に良かった。
 ココちゃんのセリフで月が戻ってくるのだと、改めて実感する。
 そう思ったら、緊張の糸が解けたのか、思わずいろんな思いが込み上げてきた。
 月が話せるようになったら、まず初めに何を話そう。
 今日までのことをあれやこれやと思い出す。
 ……話したいことがありすぎるな。
 涙をグッと堪えていると、永久さんが私の手をぎゅっと握った。
 いつもなら解かなければと思う手もなぜか話すことができない。

ーーきゅっ。

 優しく永久さんの手を握り返す。
 私たちが手を繋いでいることを、誰も気づいていない。
 そして、近づきつつある地球の危機にも、このときは誰も気づいていないのだったーー。

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