第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「さて、今日はここまでです」

セナがそう告げ、木剣を下ろした。

「うん、わかった」

素直に頷くと、

「……珍しく素直ですね」

と、少し意外そうな声。


「だって」

私は肩をすくめて笑う。

「みんなから“無理はだめです!”って、何度も念を押されたから」

ユウリに、
ディランに、
テオに、アリス、
お医者様と、
ほんとにみんなから

思い出すだけで苦笑いが浮かぶ。

「そうですね」

セナは小さく息を吐き、ふっと笑った。

その笑みは、以前よりどこか柔らかい。

「皆、本気で心配しています」

「……うん、知ってる」

木陰を渡る風が、汗を冷やしていく。

しばらく並んで歩いてから、セナがぽつりと言った。

「ですが」

視線は前を向いたまま。

「こうして再び剣を握られている姿を見られるのは……正直、安心します」

「心配性だね」

そう言うと、

「騎士ですから」

と、いつもの答え。

けれど続けて、ほんの少しだけ声を落とした。

「……貴女のおかげです」

思わず足を止める。

振り返ると、セナはすぐに視線を逸らした。

「それ以上の意味はありません」

きっぱりとした言い方。

でも、耳がわずかに赤い。

「……うん」

私は微笑んで、再び歩き出す。
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