第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
真実
「くそ、全員揃ったか。
だがまだだ!まだおわらない!」
赤黒い魔力が渦を巻き、床の魔女の雫が一斉に浮かび上がった。
悲鳴にも似た魔力音が、研究区画を震わせる。
「ここにいる者すべてが、実験材料だ」
ガイルが両腕を広げ、嗤った――その瞬間。
赤黒い魔力が、私の足元で――蠢いた。
「……っ!」
床に散っていたはずの魔女の雫が渦を描き、
まるで生き物のように絡みついてくる。
「な、に……これ……!」
逃げようと足を引いた瞬間、
ぐんっ――
強い力で引き戻された。
「きゃ……っ!」
足首に冷たい感触。
魔力が、粘ついた鎖のように私の脚を締め上げる。
一歩、また一歩と、
意思とは無関係に体が前へ引きずられていく。
「離して……!」
叫んでも、魔力音にかき消された。
研究区画全体が悲鳴を上げている。
床も壁も、空気さえも赤黒く脈打ち、逃げ場がない。
「はは……いい反応だ」
ガイルがこちらを見て、愉しそうに目を細めた。
「恐怖に染まった魔力は、実に美しい」
私の身体が宙に浮く。
足首を掴む雫が、さらに増殖し、
腰、背中、腕へと這い上がってくる。
「や……やめて……!」
腕が上がらない。
声も震えて、うまく出ない。
ガイルがゆっくりと近づいてきた。
「安心しろ。すぐには殺さない」
指先に赤黒い魔力が集まり、
刃のような形を成す。
「お前の中に雫を流し込み、
どこまで耐えられるか――見せてもらおう」
喉元に、冷たい指が触れた。
びくりと身体が跳ねる。
喉に食い込む指先が、ゆっくりと力を増した。