第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……っ、ぅ……」

息が吸えない。
視界の端が白く滲む。

「ティアナ!」

ディランの叫び声が、魔力音を裂いて響いた。

「ガイル! 彼女を離せ!」

金属が擦れる音。
剣を抜いたのが、音だけでわかった。

「くっ……魔力の干渉が強すぎる……!」

誰かが歯噛みする声。

「お嬢様!」

アリスの悲鳴に近い声が聞こえる。

「待っていてください、今――!」

だめ。
その“今”が、もう遠い。

足元から伸びた雫が、さらに私の身体を締めつける。

「ほう……仲間想いか」

ガイルが愉快そうに笑った。

「だが無駄だ。
この魔女の雫は、主の意思以外を拒む」

喉が締め上げられ、声が出なくなる。

「ティアナ……っ!」

ディランの声が、焦りで歪んだ。

「やめろ! 彼女に触れるな!!」

一歩踏み出そうとした瞬間、
床の魔力が跳ね上がり、ディランの足元を弾いた。

「くそ……!」

誰かが私の名を呼んでいる。

重なって、遠ざかって、
水の底みたいにくぐもっていく。

(……たすけ……)

声にならない言葉だけが、胸の中に溜まる。

ガイルの指先に、赤黒い光が集まった。

「安心しろ。
苦しみは、最初だけだ」

冷たい魔力の刃が、喉元に触れた。

「やめろォォォ!!」

ディランの叫びが、研究区画に反響する。
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