第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……で」

ふいに、父が切り出した。

「殿下とは、どうするつもりだ?」

その問いが来るとは思っておらず、
私は一瞬、言葉を失った。

「え?」

素っ頓狂な声が出る。

「……結婚するのか?」

「い、いえ!
 あ、あくまで……契約上の関係なので!」

必死に否定する私に、
父は特に驚く様子もなく、短く頷いた。

「そうか」

その反応が、逆に落ち着かない。

「……だが」

父は、少しだけ目を細める。

「殿下は、お前を手放すつもりはなさそうだな」

「……は?」

「殿下が、ティアナを本気で想っているのは分かっていた。
 だからこそ――預けていたのだ」

淡々とした声だった。
だが、その言葉の重みは、十分すぎるほどだった。

胸の奥が、むず痒くなる。

(……お父様、そんなことまで)

私は視線を逸らし、
どう返せばいいのか分からないまま、黙り込んだ。

「……まあ、いい」

父は小さく息を吐き、肩の力を抜いた。

「好きにしなさい」

こちらを見る視線は、もう探るものではない。

「お前が決めればいい」

それは放任ではなく、
“信じている”という許しだった。

胸の奥に、あたたかいものが静かに落ちる。

「……はい」

短く返したその声は、
自分でも驚くほど、まっすぐだった。
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