第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「ねぇ、お嬢さま」

「なに?」

「この先、お嬢さまが誰を想ったとしても……
 俺の気持ちは、変わらないよ」

「……テオ」

その声が、かすかに震えた。

「隣に立てなくなっても、
 同じ道を歩けなくなってもさ」

一歩、距離が縮まる。

ダンスの形のままなのに、
指先が絡まりそうなほど近い。


「大好きだよ」

「この先も、ずっとね」

視線が合った瞬間、逃げ場がなくなった。

ルビーのような紅い瞳が、まっすぐ私だけを映している。

(……近い)

息が触れそうで、思わず喉が鳴る。

腰に回された手に、ぎゅっと力がこもった。

離す気がないのではなく、
離れたくないのだと伝わる強さだった。

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

心臓の音が、彼に聞こえてしまいそうで――

「……う、うん」

それ以上、言葉にならなかった。

曲が終わりに近づいても、
テオはすぐに手を離さなかった。

名残惜しそうに、指先が触れる。

ほんの一瞬。

それだけなのに、
触れた場所が熱を持ったまま消えなかった。
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