第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……訓練の成果です」

「剣、振りすぎ」

そう言ってから、
小さく付け足す。

「……お互いさま、だけどね」

彼は、
小さく肩をすくめた。

「……お嬢様が、
無茶をなさるものですから」

「そうだね」

私は、
その手を離さずに続ける。

「でも、いつも……
無茶に付き合ってくれる」

一瞬、
セナの指先が強張る。

「それはもちろんです」

静かに、
迷いのない声。

「私は、
お嬢様の騎士ですから」

少しの沈黙。

「……でも、だめだね」

私が、
ぽつりと言う。

「無理しすぎるのも。
怪我したら、大変だよ」

その言葉に、
セナは困ったように笑った。

「……あなたに言われると、
反論できませんね」

罰が悪そうで、
それでもどこか嬉しそうな表情。


ゆっくりと、
手が離される。

――はずだった。

セナは、
一歩だけ、こちらに近づいた。

ほんの半歩。
吐息が触れるほどの距離。

視線が絡み、
言葉が、止まる。

「……」

セナの喉が、
小さく鳴る。

伸ばしかけた手が、
途中で止まった。

指先が、
私の頬に触れそうで――触れない。

「……」

一瞬、
何かを決意したような目。

けれど、
次の瞬間には、
その一歩を引いた。

「……失礼しました」

低く、
抑えた声。

「今は……
いけませんね」

自分に言い聞かせるように、
そう呟く。

「療養中のお嬢様に、
余計な負担をかけるわけには」

深く一礼し、
距離を取る。

「どうか、
ゆっくりお休みください」

扉へ向かう背中は、
少しだけ、
強張っていた。
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