第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
お嬢様が回復してきた日の夜。
「セナ、少し話さないか?」
声をかけてきたのは、ディランだった。
「……はい」
応じはしたが、正直に言えば――
俺はこの人が嫌いだ。
蝶の会。
宝石事件。
結果的にとはいえ、お嬢様を危険に晒した存在。
だが同時に、この人には――
逃げない覚悟がある。
それだけは、認めている。
静かな部屋。
ランプの灯りが、2人の影を床に落とす。
「セナ。きみに、聞きたいことがあったんだ」
ディランが切り出した。
「……俺も、貴方と話したいと思っていました」
少し意外そうに目を細め、殿下は頷く。
「君は、孤児院のボランティアの一件で
彼女を危険から遠ざけようとしていたね」
「……はい」
本当は、そうしたかった。
だが彼女は――
蝶の会へと、自ら足を踏み入れた。
「俺ともそういう話をしたはずだ」
「はい」
責めるでもないディランは穏やかな声で続ける。
「君は、どうやって折れたんだい?
彼女に説得されたのか?」
……言いたくない。
孤児院の件では、確かに世話になった。
だが――それだけじゃない。
「それとも……あの書類に関係があるのかな」
【多人数連携調律試験 実施申請】
俺は、静かに息を吸った。