非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く

 椛が最初に動いたのは、暁の家に来たその日の夜。寝込みを襲おうとして失敗に終わった。本業は殺し屋にも関わらず、暁は夜遅くまで団子のたれの仕込みをしていて、待っている間に椛が先に寝落ちてしまったのだ。

 それなら早朝目覚める前に……と思い、二日目はまだ朝も暗いうちに暁の部屋に忍び込んだが、既に布団は藻抜けの殻だった。

 聞けば、暁は夜遅くに少し眠るだけで、夜明け前には起きて鍛錬のために走っているらしい。もしかしたら、そこで黒羽外来を受けた暗殺の仕事をしているのかもしれない。

 三日目は徹夜で見張ろうと思っていたら、団子屋を閉めたあとで、暁が「ちょっと一杯やってくる」とふらりと家を出て行った。すぐに後を追おうとしたが、椛が家を出ると暁は既に姿をくらましていた。そのまま団子屋の開店時間まで戻ってこず、椛はヤキモキとした夜を過ごした。

 四日目も五日目もそんな調子で失敗し、ようやく六日目で昼寝中の暁の寝首を掻く機会を得たが、情けないことに、手が震えてうまくいかなかった。

 七日もあれば、黒羽の赤鴉を仕留められる。そう思っていたのに、現実は全然うまくいかない。

 それもそのはずだ。椛はこれまで、一度も実戦で人を(あや)めたことがない。

 訓練用の木製の人形に刃を立てたことなら何度もあるが、他の兄姉たちに比べれば威力は弱かった。とても実践で通用するレベルじゃない。

 結局、黒羽の赤鴉に擦り傷ひとつつけられないままに、椛は猶予として与えられた七日目を迎えてしまった。
 
(今日中に赤鴉を仕留めなければ、不知火を追放されてしまう……)

 いつも通りに団子屋の売り子に立った椛は、朝から不安と憂鬱でいっぱいだった。

 この七日間で椛が得たのは、団子の適量なたれの付け方と釣り銭の勘定の正確性。

 せっかく標的の家に入り込めたと言うのに、父や兄姉に知られれば失笑されるだろう。

(やっぱり、わたしはどうしようもない出来損ないだ……)

 最後まで任務を諦めるつもりはないが、最悪の事態も考えておかなければいけない。
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