非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
出来損ないとは言え、椛は不知火家の末子。暗殺を行っていた家の秘密もそれなりに知っている。
追放されたあとは、今度は椛が不知火家の暗殺対象になるかもしれない。そうなったら、父はともかく兄姉たちは椛に容赦しないだろう。
彼らは子どもの頃から椛のことが好きではない。なかでも姉の椿は、特に椛を嫌っている。
六年前、母は椛を庇うようにして殺された。だから、椿は椛のせいで母が死んだと思っているのだ。
椛が浮かない顔で立っていると、ドンッと誰かに肩を押された。
「ちょっと! あんた、話聞いてるの」
よろける椛の耳に、女の苛立った声が飛び込んでくる。
ハッとして顔を上げると、腕組みした女が椛を睨み付けてきた。
どこかで見たことがあると思ったら、初めてここに来た日に会った鮮やかな紅の女だ。質の良さそうな着物を身に付けた彼女のそばには、椛よりも少し幼い雰囲気の小間使が控えている。
今日も紅の赤が目立ったが、会うのが二度目だからか、この前のような呼吸困難にはならなかった。
「すみません。少しぼーっとしてしまって。今日はこちらでお召し上がりですか」
「あなたじゃなくて、暁さんがいいのだけれど。いらっしゃるんでしょう?」
薄く笑顔を作る椛を見て、女が不快げに眉を寄せる。
「ええ。ですが、旦那様は今日も表には出ないかと……」
「なぜ? 呼んでくればいいじゃない」
「呼んでも出て来ないと思います。女性のお客様の対応に疲れて、わたしに売り子を任せているようなので」
「あら、そう。あなた、もうすっかり暁さんの妻気取りなのね」
嫌味たっぷりにそう言う女のことを、椛はあまり好きになれそうもなかった。
「妻気取りではなく、妻です」
小さな声で反論すると、女が眉間を寄せて軽く舌打ちしてきた。
「お嬢様……」
「わかってるわ」
下品な態度を小間使に咎められ、女が不機嫌そうに唇を尖らせる。それから女は椛を睨むと、
「団子を一皿とお茶をひとつ。ここで食べるわ。それから、お土産用のお団子を包んで」
少し高圧的な態度で言った。
「かしこまりました」
女からの注文を受けて店に入ると、暁はごろんと座敷に寝転んでいた。