非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
刀を握る手をブルブル震わせていると、暁が椛の手首をゆるくつかんでいるだけだった手に力を込める。
「おまえが殺らないなら、俺からいくぞ。不知火 椛」
低い声で名を呼ばれた次の瞬間、手首を捻られ、椛の視界が反転した。
気付けば、見下ろしていたはずの暁に上から見下ろされている。その向こうには、木目の天井。完全に形勢逆転されてしまった。それだけでなく、暁は椛が不知火の手の者だということまで把握している。
椛が握っていた短刀が、今は暁の手にあった。それが、暗い部屋の中で白い灯りのように光っている。
任務を失敗すれば、不知火家からの追放される。ずっとそのことばかり恐れてきたが、危惧すべきはそれだけではなかった。
任務に失敗するということはすなわち、黒羽の赤鴉に椛が殺される可能性もあったのだ。
「なぜそこまでわかっていて、七日もわたしを泳がせたのです?」
懸命に暁を睨みつけたが、身体や声の震えは抑えられない。暁は椛から奪った短刀の峰をゆっくりとなぞると、不敵に笑んだ。
「せっかくだから、お手並み拝見と思ってな。なかなか、俺のところに正面から飛び込んでくる奴はいないぞ。だが、椛、おまえに殺しは向いていないな。右腕が万全ではないとはいえ、チャンスは何度もあっただろう」
それ聞いた瞬間、椛の頬がピクリと引きつる。
初めてここに来た日に暁に見られたのは、殴られて痣のできた左腕だけだ。
姉たちとの共同任務中、標的の仲間に切られた右肩近くの傷は見られていない。傷はそれほど深くはなかったが、まだ完全には治り切っていなかった。
ときどき痛むものの処置はしていて、動きに不自然さはなかったと思う。それなのに、見えてもいない怪我にまで気付かれていたなんて――さすが、黒羽の頭領だけあって侮れない。