非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く

「春の約束も、守ってくれますか?」

 つぶやくように訊ねる椛に、

「春……? ああ、椛のな」

 暁は少し首をかしげてから、ふっと目を細めた。

『俺は春に咲く椛が好きだ』
『春になったら見せてやろう』

 団子屋の裏庭で暁がくれた『好き』の言葉が、椛の耳に蘇る。それだけで胸がきゅっと苦しくなって、短刀が手から離れて落ちた。

「暁さん、これからもわたしをそばに置いていただけますか」
「承知した」

 少し自信なげに瞳を揺らす椛に、暁がにこっと笑って腕を開いた。

「これからはかりそめの妻ではなく、俺だけの椛だな」

 機嫌良さそうな声でそう言って、暁が椛を抱きしめる。ひさしぶりに触れる他人の体温に、椛の鼓動が速くなった。

 静かに流れてきた夜の風が、暁の髪を揺らす。その赤に手で触れながら、椛はこの男が必要なのだと強く思った。

(わたしは、暁さんが好き――)

 たしかになった気持ちごと、椛も暁をそっと抱きしめた。
 
 
Fin.
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