非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く

「これで解毒になるといいが」

 暁のつぶやく声に目を開ける。

「解毒……?」

 暁は六年前に椛を異能で眠らせたと言っていたが、椛が記憶を忘れていたのはそのせいだったのだろうか。

「あらためて聞くが、おまえはどうする? その刀を振り下ろすか、もしくはこのまま俺のそばにとどまるか……?」

 問い返す椛に、口元にうっすらと笑みを浮かべた暁が挑発するように問いかけてきた。

「とどまる……? でも、あなたは姉を殺すつもりなのでしょう」
「それが任務だからな。だが、俺のそばに留まれば、いつでも止められるぞ。そばにいて、いざと言うとき椛が俺を止めればいい」
「そんな、いつ裏切るかもわからない者をそばに置いていいんですか?」

 加えられた新たな選択肢に、短刀を握る椛の手が汗ばむ。震える声で訊ねる椛に、暁は無邪気に笑った。

「ああ。それを承知で、俺は六年前に標的だった椛を生かした。初めにも言っただろう。俺のそばに留まる限り、おまえを全力で守ってやると」

 短刀は、すぐには振り下ろせなかった。

 六年前の夜のことを思い出して、赤が苦手な椛が暁の髪の色だけは怖いと思わなかった理由に気付いてしまったから。

 黒羽の赤鴉は、同業者たちの間で冷酷非道と知られる殺し屋。けれど、椛にとっては初めからずっと、やさしいひとりの男だった。

 単独任務の標的にも関わらず、冷酷さとやさしさを合わせ持つ暁に心惹かれた。
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