青春×6

曇った笑顔

期末テスト一日目。

教室は、いつもより少し静かだった。

みんなそれぞれ最後の確認をしていて、
ページをめくる音だけがやけに響く。

私は、前の席に座って、
なんとなく後ろを振り返った。

「おはよ」

かおるは、いつも通りの落ち着いた声で言う。

「おはよ」

少しだけ安心する。

やっぱり、この感じ。

「今回、やばくない?」

「やばい。全部やばい。」

「それ毎回言ってる」

小さく笑う。

そのやりとりも、いつも通りで。

でも、なんとなく——

昨日のことを思い出す。

図書館での恋バナ。

あゆと、みおと、私。

「そういえばさ」

私は、何気なく口を開いた。

「みおの好きな人、知ってる?」

かおるが、少しだけ首をかしげる。

「んー、なんとなくは」

やっぱり。

そう思いながら、

軽い感じで、言った。

「久保田らしいよー」

その瞬間。

ほんの一瞬だけ。

本当に一瞬だけ、

かおるの表情が止まった気がした。

「……あー」

少し間をおいて、

「そーなの。やっぱそーよね笑」

明るく、いつも通りみたいに笑う。

でも。

その笑い方が、ほんの少しだけぎこちなくて。

メガネの奥の目が、

いつもより静かで。

——あれ?

胸の奥が、ざわっとする。

今の、なんか違った。

うまく言えないけど、

いつものかおるじゃない。

「どうしたの?」

思わず聞きそうになって、

でも、やめた。

テスト前だし。

気のせいかもしれないし。

「てかテストやばいんだけど」

代わりに、そんなことを言う。

「それはほんとにやばい」

かおるも、すぐに返してくる。

いつも通りの会話。

いつも通りのテンポ。

なのに、

さっきの表情が、頭から離れない。

——もしかして。

そこまで考えて、

やめる。

違うかもしれない。

考えすぎかもしれない。

そう思いたかった。

「じゃ、がんばろ」

「がんばろ」

チャイムが鳴る。

テスト用紙が配られる。

問題を見る。

——なのに。

全然、頭に入ってこない。

さっきの、かおるの顔。

あの一瞬の“曇り”が、

ずっと残ってる。

ペンを持つ手が、少し止まる。

——なんで、あんな顔してたの。

答えの出ないまま、

時間だけが過ぎていった。
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