隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません

56 最強の騎士からの称賛

「セイラは信じていた君に裏切られたと思って確実に絶望するだろう。そんな思いをさせるのは……本意ではないだろう」

(ガイズ殿のセイラへの思いは複雑なものだ。だからこそ、セイラを絶望させるようなことはしたくないはずだが)

 ダリオス自身、セイラに絶望を味わわせることはできればしたくない。ポリウスにいた頃、長年セイラの護衛をしてきたガイズが偽りとはいえセイラを裏切っていたと思わせられれば、セイラの心痛はどれほどのものだろうか。
 ダリオスの言葉に、ガイズは膝の上でまた拳を強く握り締めた。そして、ダリオスをジッと見つめる。

「もちろん、セイラ様に辛い思いをさせるのは本意ではない。だが、セイラ様が本気で絶望する様子を見ることで、ルシアも第一王子も国王の前で本性を現すはずだ。そのためならば、俺はセイラ様にどう思われようとも構わない。それに……セイラ様であれば、我々の判断を後々きっとわかってくださるはず。自分は、セイラ様を信じている」

 ガイズの言葉に、ダリオスは小さく息をのんだ。この男は、誰よりもセイラを信じている。長年側でセイラを守って来た自負と、セイラとの信頼関係に絶大な自信を持っているのだ。その事実に、ダリオスの胸に黒い靄のようなものがかかる。

(こんな時にまで嫉妬が芽生えるなんて、俺もまだまだだな)

 そんな思いを払拭するかのように、ダリオスはそっと目を伏せ、それからすぐに顔を上げた。

「わかった。ガイズ殿の決意に乗ろう。セイラにはこのことは秘密にする。クレアも、セイラには黙っていてくれ」





「こうして、自分はハロルド卿たちと共に、あの男たちが行動を移すのを待っていました。そして、ついにその日が来た」

 ガイズの話を聞きながら、セイラはただ大きく瞳を見開いてガイズとダリオスを見つめていた。自分の知らないうちに、こんなにも大掛かりなことが秘密裏に動いていたのだ。

「セイラ様にお伝えしなかったのは俺の判断です。セイラ様には辛い思いをさせてしまいました。本当に申し訳ありません」

 そう言って、ガイズは深々と頭を下げる。それを見て、ダリオスは悲し気に微笑んだ。

(ガイズもダリオス様も、誰も何も悪くない。みんな、それぞれが必要なことをそれぞれに行っただけだわ)

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