隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 ガイズがどれだけの思いをしてセイラに隠しきったのか、そしてあの時、セイラの絶望する顔を見てどれほどの思いだったのか。それを思うだけでもセイラの胸は痛みで張り裂けそうだった。セイラは胸の前で両手を握り締めると、すうっと深呼吸する。それから、そっとガイズに語り掛けた。

「ガイズ、頭をあげてください。私は話してもらえなかったことを怒ったり悲しんだりしません。あなたもダリオス様も、誰も何も悪くないんです。むしろ、あなたがどれだけの思いを抱えて今回のことに臨んだのか、それを考えると私の方が頭が上がりません。あなたが判断したことは正しかった。だから、もうそんなに謝らないで」

 セイラの言葉に、ガイズの肩がほんの少し揺れる。そして、静かにガイズは顔を上げ、セイラを見た。セイラはどこまでも深い優しさを含んだ微笑みをガイズに向けていて、ガイズは思わず息をのむ。だが、すぐにハッとして、また小さく頭を下げた。

「ありがとうございます」

 ガイズの肩はほんの少し震えていた。膝に置く手は拳がきつく握られている。そんなガイズを、ダリオスは複雑な思いで見つめていた。

「それでは、自分はこれで失礼します。お二人の邪魔をしてはいけないので」

 小さく深呼吸してからガイズは頭を上げて小さく微笑み、そう言って立ち上がった。

「ガイズ殿」

 部屋から出ようとするガイズの背中に、ダリオスの声がかかる。ガイズが振り返ってダリオスを見ると、ダリオスは真剣な眼差しを向けていた。

「今回のこと、本当に感謝している。ガイズ殿の騎士としての思い、行動は称賛に値する。今後も、どうかレインダムのために、……そしてセイラのためにその力と忠誠心を存分に発揮してほしい」

 ダリオスの言葉を聞いて、ガイズの両目が大きく見開かれた。セイラは本当に嬉しそうにガイズを見て頷き、微笑んでいる。それを見て、ガイズの胸に表現のできないほどの強い思いが溢れ、ガイズは深々とお辞儀をする。そして、静かに部屋から出て行った。

 ドアを閉め、ガイズは静かに歩き出した。だが、途中で歩みが止まる。ガイズはよろよろと壁に寄り掛かると、俯いて両手で顔を覆った。ガイズの肩は静かに震え、両手の隙間から水滴がポタリポタリと落ちていく。その涙は、ガイズが生きてきた中で一番嬉しい涙だった。

 少しして、ガイズは袖で涙を拭い、ふーっと大きく息を吐いた。それからガイズはしっかりと前を見て歩き出す。その顔は、今まで以上に逞しく頼りがいのある騎士の顔だった。

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