隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
「何か言いにくいことがあるなら無理に言ってほしいとは思わない。でも、俺は君にもっと自分自身を大切にしてほしいと思っている。それだけはわかってほしい」

 ぎゅっ、とセイラの手を握るダリオスの手の力が少し強まる。

「……わかりました。困らせてしまい、申し訳ありません」
「君はそうやって謝ってばかりいる。俺は謝られるより、感謝されるほうがいいな」
「えっ、……あ、すみませ……じゃなくて、ありがとうございます」
「うん、それがいい」

 そう言って、ダリオスは優しく微笑んだ。その微笑みには甘ささえ感じられてセイラの胸は思わずときめく。

(こんな時に、ダリオス様の笑顔が素敵に思えるなんて……こんな笑顔を向けられたら、どんな女性だってきっと胸を高鳴らせてしまうわ。勘違いしてはだめ、私はただ国の材料として売られてきただけなのだから)

「まだ疲れているだろう、もう少し寝るといい。それとも、何か必要なものはあるか?飲み物とか食べ物とか、ほしいものがあれば遠慮なく言ってほしい。君はこの国の大切な聖女なんだから」

(大切な、聖女。そう、私はただの聖女。それ以上でも、それ以下でもない)

 セイラは少し俯いて瞳を閉じ、すぐに開いてダリオスを見つめて微笑んだ。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。流石に本調子ではないので、少し眠らせてください」
「ああ、わかった」

 そう言って、ダリオスは握るセイラの手を名残おしそうに見つめる。

(どうしてそんな目で見ているの?ダリオス様にとって私は、ただの聖女でしかないのに)

 セイラの胸の内を知る由もなく、ダリオスは小さくため息をついてからセイラの手を離し、立ち上がった。

「ゆっくり休んでくれ。それじゃ」

 そう言ってダリオスはドアへ歩いていくと、部屋を出る直前に振り向いてセイラを見つめ、部屋を出ていった。そのダリオスの視線にはやはり何か熱いものが感じられるような気がして、セイラの胸はさらに高鳴るのだった。
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