隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません



 屋敷について、ダリオスはセイラを部屋へ送り、執務室で自席に座って椅子の背もたれに背中を預け、天井に顔を向けながら大きくため息をついた。

(だめだ、セイラ嬢を抱きしめてから、もっと触れたいと思ってしまう自分がいる)

 息抜きにと街へ誘い一緒に歩いていたが、セイラがあまりにも嬉しそうでダリオスまで嬉しくなってしまった。それに、迷子を助けた時のセイラの言葉、仕草、行動、全てに目を奪われる。何より、太陽の光に照らされたセイラがあまりにも美しく、そのまま光に溶け込んで消えてしまいそうで、咄嗟に抱きしめてしまったのだ。

 突然抱きしめてしまったことを嫌がられたかと思い馬車の中で謝罪すれば、思っていたのとは全く違う肯定的な言葉がセイラの口から出てきて驚いた。それからだ、タガが外れたようにセイラにもっと触れたい、もっと知りたいと思うようになってしまう。

(嫌がられるなら諦めがつくのに、むしろ好意的な態度をされたら勘違いしてしまうだろう。彼女はあくまでも聖女として俺の腕を治すために来ただけだ。それ以上でも、それ以下でもない)

 左腕のシャツを捲ると、腕の黒いシミのような痕がほとんど薄まっているのがわかる。セイラからは、もう少しで完治できそうだと言われている。この腕が治ったら、セイラはきっとポリウスに帰るのだろう。だが、セイラを帰したくないと思ってしまっている自分がいて、ダリオスはどうしようもなかった。

(こんな気持ち、抱くべきではないとわかってる。わかっているはずなのに、どうしても彼女を帰したくない、そばにいてほしいと思ってしまう)

 セイラの様子、そして話の内容から、ポリウスにいてもセイラはあまり幸せでないのではないかと思ってしまうのだ。ポリウスの話をする時のセイラは、どこかほんの少し寂しげで悲しげだ。セイラが自分自身を蔑ろにして他人を優先してしまうのは、聖女だからというだけではないのではないか。

(彼女をここに繋ぎ止めるにはどうしたらいい?彼女が自分から、ポリウスに帰りたくない、ここにいたいと思ってもらえるようにしたい)

 そう思いながら左手をぎゅっと握り締めると、ドアがノックされる。

「ダリオス様、クレアです」
「ああ、どうぞ」

 ダリオスが返事をすると、書類を手にしたクレアが部屋に入ってきた。

「ダリオス様、今日はセイラ様とデートだったんですよね?いかがでした?さっきセイラ様へご挨拶に伺いましたけど、セイラ様は顔を赤らめてそれはそれは可愛らしかったですよ。何かあったんですか?」

 ダリオス様も隅に置けませんねぇとニヤニヤしながら言うクレアに、ダリオスはなぜかもやもやとしたものを感じる。

(セイラ嬢が可愛い?クレアにもそんな可愛い表情を見せていたのか?無防備すぎるだろう。……クレアにさえこうやって嫉妬してしまうなんて、本当に末期だな)

 はあ、と小さくため息をつくと、ダリオスはクレアの手元の書類を見て口を開く。

「そんなことより、何か用事があってきたんだろう」
「ああ、そうでした。ポリウスの聖女について調べがついたのでご報告です。なかなか面白いことがわかりましたよ」

 クレアが真剣な顔で書類を手渡すと、ダリオスは書類に目を通しながら眉を盛大に顰めた。
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