隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
「君だからだ。君だから俺は大切に思うんだ。自分なんかだなんて卑下しないでくれ」
「そんな、ただの聖女である私が、ダリオス様の妻としてこんなに大切な指輪をいただけるなんて……本来であればダリオス様のような素敵な方にはもっとふさわしい方がいるはずです。それなのに、私は聖女だからとダリオス様の隣にいることができてしまう。だからこそ、私はちゃんと自分のこの力を、レインダムとダリオス様のために役立てたいと思っています」

(ダリオス様への気持ちは、きっと言うべきではない。でも、聖女としての気持ちなら、いくらでもお伝えすることができるもの)

 指輪を優しくなでながら、セイラは眉を下げて微笑む。そんなセイラの言葉に、ダリオスは美しいエメラルド色の瞳を不安げに揺らした。

「君は……やっぱり、聖女とでしか俺のそばにはいてくれないのか?」
「え?」

 ダリオスが、セイラの両手をそっと握る。

「俺は、聖女としての君を大切に思っている。それは、レインダムの騎士として当然のことだ。だが、俺は君に対してそれだけではない気持ちも持っている」

(それだけではない気持ち……?)

 セイラが戸惑いながらダリオスの瞳を見つめると、エメラルド色の瞳の奥に、何かとてつもなく熱いものを感じて胸がドキリとする。

「俺は、聖女という肩書とは関係なく、君に惹かれている。君が大切で、愛おしい。君から向けられる笑顔に心は喜びのあまり張り裂けそうになるし、君が他の男と楽しそうに話をしているだけで、……その、胸の中がモヤモヤしてしまう」

(えっ、……ダリオス様?)

「聖女とは関係なく、俺は君にそばにいてほしい。叶うなら君と本当の夫婦になりたいんだ。俺は、君の髪の毛にも、肌にも、唇にも、そして心にも……全てに触れたい。こんな気持ちを君に抱いてしまうことは、いけないことだろうか?」

 ダリオスの手がセイラの元へそっと伸びる。その手は、セイラの髪の毛に優しく触り、それからセイラの頬を優しく撫でた。その手の感触に、セイラは思わず顔を赤らめる。

(そんな、まさか、ダリオス様が私のことをそんな風に思ってくださってるだなんて……!)

 自分はダリオスにとって、ただ聖女としてそばにいてほしい存在なのだと思っていた。ダリオスの甘い視線や発言に、勘違いしてはだめだとずっと思っていたのだ。だが、ダリオスは本当にセイラのことを大切に愛おしく思っている。

 ダリオスの瞳は、セイラの返答を待っているかのように甘く、熱い。

「私はずっと、聖女としてではない気持ちでダリオス様のそばにいてはいけない、そう思っていました。ダリオス様はきっと、聖女として私を必要としているのだからと。例えそうだとしても、それでも私はダリオス様のそばにいられるなら幸せだと思っていました。でも本当は、私も聖女としてではなく、私自身としてダリオス様のそばにいたい。……私も、ダリオス様に、触れてほしいです」

 緊張しながら絞り出すようにして発せられたセイラの声はか細く小さい。それでも、ダリオスの耳にはしっかりと届いていた。セイラの言葉を聞いて、ダリオスは両目を見開き、心底嬉しそうに微笑む。セイラの頬に手を添えたまま、ダリオスはセイラの瞳を覗き込んだ。

「よかった。好きだよ、セイラ。君のことを、愛している」

 その言葉にセイラが驚きながらも顔をより一層赤らめ、嬉しそうに微笑むと、ダリオスは顔をセイラに近づけて静かに唇を重ねた。



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