隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 胸の前で腕を組みながらルシアは勝ち誇ったように言い切った。セイラはまだ唖然としてルシアを見つめている。

(そんな、ルシアの聖女の力が戻らない?毎日祈っても戻らないっていうの?ルシアが聖女の力を取り戻せないなら、ポリウスには、聖女がいなくなる……?私がレインダムに行ってしまったら、ポリウスはまた悲惨な状況になって、滅んで、しまう?)

 各地を浄化して回った時に出会った人々の顔を思い出す。大変な状況なのにセイラが来たことを喜び、中には涙を流してお礼を言う人もいた。誰一人、セイラがレインダムへ行くことを非難することなく、セイラの幸せを願ってくれたのだ。
 そんな人たちを、故郷を、自分は見捨てられるのだろうか。セイラは震える両手をぎゅっと握り締める。見捨てることなんてできない、でも、ポリウスに残ることを選べば、レインダムにはきっと二度と戻ることはできないだろう。レインダムのために祈ることもできず、ダリオスとも、もう一緒にはいられないのだ。

(私は、聖女としてどちらかを選ばなければいけない。どちらか一方を……)

 両目をぎゅっと瞑り、大きく深呼吸する。迷ってなどいられない。この決断が正しいかどうかなどわからない、だが、今ここで、選ぶしかないのだ。セイラは顔をあげ、口を開いた。

「私は……」
「待ってくれ」

 セイラが何かを言おうとしたその時、ダリオスがセイラの発言に言葉を重ねる。セイラが驚いてダリオスを見ると、ダリオスはセイラへ小さく微笑んでから、ルシアに厳しい視線を向ける。ダリオスの微笑みは、まるで問題ない、安心しろと言っているかのようで、セイラの心はふんわりと温かくなった。

(ダリオス様……?)

「セイラがレインダムに戻ればポリウスに聖女がいなくなり、いずれポリウスは滅ぶと言ったな。だが、そうはならない」
「は?何を言ってるの?唯一の聖女であるセイラがポリウスからいなくなったら、そうなるに決まっているでしょう」

 ダリオスの言葉に、ルシアは苛立ったように聞き返す。セイラも、疑問の眼差しをダリオスへ向けた。

「ポリウス国内を回っている間に、王城でポリウスの王が我々にしたことをレインダムの国王へ報告しておいた。そして、つい先ほど、国王から返事が届いた」

 ダリオスがそう言うと、クレアは書簡を取り出し掲げた。

「近いうちに、小国ポリウスはレインダムのものになる」

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