隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません

24 たった一人の聖女

 馬車が止まると、また窓がノックされクレアが顔を覗かせる。

「ダリオス様、セイラ様の妹君の近くまで到着しました。それから、つい先ほどこれが届きました」
「ああ。これは……そうか」

 クレアが窓からダリオスへ書簡を手渡した。ダリオスは書簡を開いて目を通すと、小さく口角を上げた。それを見て、クレアも何かを察したように微笑む。その様子を、セイラは不思議そうに眺めていた。

(書簡……レインダムの国の紋章が入っているわ。レインダムで何かあったのかしら)

「セイラ、いこうか」

 ダリオスがクレアに書簡を返してセイラを見ると、セイラは小さく頷く。
 ダリオスはセイラをエスコートしながら馬車を降りる。前方には、ルシアが兵を引き連れて立っていた。

「ごきげんよう、セイラ。長旅ご苦労様」
「ルシア……まだ私に用があるの?もうあなたとの話は終わったはずだわ。それに、どうしてそんなに兵を連れているの?」

 セイラの言葉にルシアの片眉がピクリと上がる。ダリオスはセイラを守るようにしてセイラの側に立ち、クレアは周囲を警戒しながら二人のすぐ後ろにいた。

「私はこの国の聖女であり王女よ?護衛のために兵を連れていて当然でしょ?そんなことよりも、各地を浄化してくれてありがとう。おかげでポリウス国内もだいぶ落ち着いてきたわ。でもね、やっぱり私、聖女の力がもう戻らないみたいなの。ちゃんと毎日祈りを捧げてるけど、聖女の力はほんの少ししか戻らないわ。これじゃいつまで経ってもセイラのように瘴気を浄化したり天変地異を鎮めたりすることなんてできっこない」
「そんな……」
「今セイラがレインダムに帰ったら、いずれまたポリウスは悲惨な状況になって、最後は滅びてしまうわ。ポリウスにはあなたしかいないの。私はもうほとんど聖女の力を使えないから、聖女は引退して王女としてお父様のお手伝いをするわ。だから、もうポリウスの聖女はあなた一人だけ。こんな状況で、それでもレインダムへ行くと言えるの?」

 ルシアの言葉に、セイラは両目を見開いて絶句し、ダリオスとクレアは眉間に皺を寄せてルシアを睨みつける。視線に気づいたルシアはダリオスを一瞥してから、セイラへ視線を戻した。

「ねえセイラ。今レインダムへ戻れば、あなたはポリウスを見捨てることになる。セイラはポリウスの国民のことが大切なんでしょう?ポリウスが大好きなのでしょう?見捨てることなんてできないわよね?だったら、私と一緒に王城に帰って。セイラがすべきことは、レインダムの聖女になることじゃなくて、ポリウスの聖女として戻ることよ」

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