隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
「ポリウスが降伏しレインダムのものになれば、セイラは気兼ねなくポリウスに足を運べる。ああ、その頃にはポリウスという国名は無くなっているかもしれないが。ポリウスの王は、セイラの同行が俺とクレア二人だけということを好機と思ったのだろうが、逆だ。セイラと同行することで、俺とクレアは簡単に王の前に近づくことができる。命を危険に晒していたのは、ポリウスの王の方だ」

 ダリオスはそう言ってから、セイラの肩を優しく抱く。ダリオスの手が触れた瞬間、セイラは驚いて肩を震わせるが、ダリオスは一瞬悲しそうな顔をして、すぐに優しく微笑んだ。

「セイラ、行こう。ここにもう用はない」

 そう言って、ダリオスはセイラを馬車の中へ連れて行く。クレアはそれを見て、単身馬に乗って馬車を先導する。馬車が動き出すと、馬車の前を塞いでいた兵士たちは自然に道を開けた。ルシアは腰が抜けて立てないのだろう、兵士に引き摺られるようにして道の脇に置かれた。

(ルシア……)

 セイラは馬車の窓からルシアを見る。ルシアは、まるで魂が抜けてしまったかのようにその場に座り込んだままだ。目も合わず、セイラを乗せた馬車はルシアの横を通り過ぎていった。



 馬車の中で、セイラはずっと小さく震えていた。ダリオスはセイラの横に座ってセイラの肩を抱いているが、セイラの震えは止まらない。

「……セイラ、怖がらせてしまってすまない」

 ダリオスの悲しげな声がすぐ横から聞こえて、セイラはハッとする。ダリオスの顔を見上げると、ダリオスは辛そうな顔でセイラを見つめていた。

(ダリオス様、どうしてそんな……辛そうな顔をしているの?)

 自分がこんなにも震えてしまっているからだろうか。だが、震えを止めたいのに、止まってくれない。寒い訳でもないのに、恐怖でずっと小刻みに震えていた。

「レインダムの国王からの話は、セイラにはレインダムに戻ってから言うつもりだった。だが、争うことをせずにあの場をおさめるには、ああするしかなかったんだ。……本当に、すまない」

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