隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません



「セイラ様、お部屋に到着しました。今日はゆっくり休んでくださいね」
「ありがとう、ルルゥ。明日もあるから、あなたも今日はゆっくり休んでね」

 セイラの部屋の前に到着して、そうだ、とルルゥはセイラの近くに寄って小声になる。

「セイラ様、ガイズ様には気をつけてくださいね」
「気をつけるって、何を?」

 ガイズは騎士団長だ。気をつけるも何も、自分たちを守ってくれる存在だ。一体何を気をつけるというのだろうか?セイラが首を傾げると、ルルゥはむうと口を尖らせた。

「ガイズ様は、セイラ様を特別に思ってらっしゃいます。まぁ、この国の人間は私を含めてみんな、セイラ様を特別に思っていますが……なんというか、その特別とはまた違う気がするんですよね。うまく言葉にできないのですが」
「?」
「とにかく、ハロルド卿がいらっしゃるまでは私がセイラ様をちゃーんとお守りしますから、安心してくださいね!」

 ルルゥは勢いよくそう言って腕を曲げ力こぶを作るような仕草をした。それを見て、セイラはその可愛らしさに思わず笑顔になる。

「フフッ、ありがとう。とても心強いわ」


 ルルゥがいなくなり、セイラは一人部屋の中をゆっくりと見回していた。ポリウスにいた頃、セイラが使っていた部屋だ。
 今回城に泊まるのであればもっと良い別な部屋を、と言われたが、セイラはあえてこの部屋に泊まることを選んだ。

(懐かしい、何も変わってないわ。変わる必要のないくらい、ほとんど何もない部屋だからかもしれないけれど)

 レインダムへ売られてから、この部屋へ戻って来るのは初めてだ。セイラの部屋はいたってシンプルでほとんど何も無い。最低限の生活ができるほどの狭い部屋だった。

 ここで、裏聖女としてひっそりと生きていた頃が、今では遠い昔のことのように思える。
 ふと、左手の薬指にある指輪が明かりに照らされてキラリ、と光った。ダリオスから貰った大切な指輪だ。

(ダリオス様も今は任務でポリウス内を回っているはず。どこらへんにいらっしゃるのかしら)

 仕事が終わったらすぐに合流する、と言っていた。セイラはその時のダリオスの様子を思い出して胸がじんわりと暖かくなる。

(早く会いたいと思ってしまうのは、ダリオス様のことが大切で大好きだからなのよね。こんな気持ちになれるなんて、ここにいてレインダムへ売られると知った時には思いもしなかった)

 胸に手を当てながら嬉しそうに瞳を閉じる。

(明日も浄化があるし、今日は早く寝て明日に備えないと)

 瞼を開け真っ直ぐに前を向くセイラの表情は、裏聖女でいた頃とは見違えるほど希望に満ちていて、瞳は宝石のように美しくキラキラと輝いていた。
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