隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 魔獣がガイズに向けて爪を振りかざした。ドオオオン!と大きな音と共に土埃が舞い上がる。ガイズは魔獣の攻撃を避けて、魔獣に剣を振りかざした。だが、魔獣は角でその剣を受けて跳ね返す。

 他の騎士たちも魔獣へ攻撃を仕掛けるが、魔獣の皮膚は硬く剣では傷がつかない。魔獣は角や爪、牙で応戦し、騎士たちは少しずつ傷を受けはじめていた。

「魔法で攻撃したいけど、せっかくガイズ様たちが距離を離してくれたのに、攻撃したらきっとこっちに魔獣の意識が向いてしまう……くそっ!セイラ様、ガイズ様たちが戦ってる隙に、一度城へ戻りましょう。セイラ様を城に届けたら、私はもう一度ここに戻ってきてガイズ様たちとまた城へ撤退します」
「……そんな!」

(そんな、私が城へ戻った後、ルルゥたちも無事に戻ってこれるとは限らないのに……!でも、そうするしか方法がないの?私はここにいない方が良い……?ここにいる方が邪魔になってしまう?)

 自分がここにいるせいで、ルルゥは思うように魔法攻撃ができない。だったら、自分はここからいなくなった方がみんな動きやすいのではないのか。

「うわああっ!!」

 考えこんでいたセイラの近くに、突然騎士が吹き飛ばされてドオオオン!と大きな音と共に土埃が舞う。衝撃でえぐられた地面には、血を流した騎士が横たわって呻いていた。
 それを見た瞬間、セイラの足は勝手に走り出していた。

「セイラ様!」

 騎士に走り寄るセイラをルルゥは止めようとするが、伸ばした手は届かない。

「今治癒魔法を!」
「セイラ、様……に、げて……くだ、さ……」
「しゃべらないで!」

(死んではダメよ、お願い、死なないで!死なせない、死なせたくない!)

 ゼーゼーと荒い呼吸で今にも息絶えそうな騎士に、セイラは治癒魔法をかける。ルルゥも駆けつけて、周囲に防御魔法をはった。

「セイラ様、治癒魔法が終わったらすぐに転移します!」

 転移魔法は複雑なため、他の魔法をかけている時に発動すると誤差が生じる恐れがある。治癒魔法と防御魔法の上にさらに転移魔法はルルゥでもさすがに発動できない。

(傷が深くて治癒が遅い……!瘴気のせいで治癒魔法が効きづらいんだわ)

 セイラは賢明に魔法をかけ続ける。その間にも、周囲には爆音が轟いている。

「!!」

 魔獣がセイラたち目掛けて腕を振り下ろした。ドオオオン!という音と共に、魔獣の腕はルルゥの防御魔法で遮られる。だが、魔獣は何度も何度も腕を振り下ろしてきた。

「騎士の流した血の匂いに反応してるんだわ……!」

 ルルゥは呟きながら防御魔法を何層にもかける。一つ目の防御魔法にはヒビが入り、あっけなく砕け散った。

(早く、早く治さないと……!)

 セイラたちを守るようにガイズたちは魔獣へ攻撃するが、その攻撃は全く効いていない。魔獣はただひたすら、セイラたちへ腕を振り下ろし、ルルゥの防御魔法を壊していく。

「セイラ様!防御魔法がもう持ちません!セイラ様だけでも城へ!」
「そんなのダメよ!それにもう少しで治癒が終わるのに!」

(お願い、間に合って!)

 セイラは必死に祈りながら魔法をかけ続ける。ルルゥの防御魔法の最後のひとつにヒビが入りかけたその時。

 シュンッ!と鋭い音がして、魔獣の体に一筋の切れ込みが入った。魔獣は何が起こったかわからないような顔で、腕を止める。そのまま、魔獣の体は真っ二つに割れ、黒い塵となって消えていく。
 その塵が消えていくと、その先には夜叉のような形相をしたダリオスの姿があった。
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