隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
 呆れたようなクレアに、ダリオスは少しだけムッとする。そして、すぐに小さくため息をついた。

「俺だってクレアのことは誰よりも信頼している。セイラとだって自由に会って話をしてくれて構わないと思っているんだ。……思ってはいるが、いざ二人が楽しそうに話をしている姿を見ると、どうしても胸の中がざわついて仕方ないというか、見ていたくないと思ってしまう」

 渋い顔で申し訳なさそうにそう言うダリオスを見て、クレアは苦笑した。

「本当に、ダリオス様はセイラ様が大切で仕方ないのですね。でも、そこまで嫉妬深いとは思いませんでした。それこそ、元ポリウスではセイラ様を慕っている騎士たちも多かったのでは?」

 クレアに言われて、ダリオスは神妙な面持ちになる。ガイズのことを思い出して、拳をまた強く握りしめた。

「……ああ。セイラは元ポリウスで本当に聖女として愛されている。嬉しい反面、正直あまり良い気持ちにはならないから困ってしまう」

(ガイズ殿はセイラを聖女として大切に思っているのだろう。だが、時折、それだけではない気持ちを抱えているのではと思えるような態度が、ほんの一瞬だけ見える。あれは、見過ごすわけにはいかない)

 恐らくセイラは何も気づいていない。むしろ、これからもずっと気づかないでいてほしいとさえ思う。ガイズもセイラにその複雑な気持ちをわかってほしいとは思っていないのだろう。

 だが、セイラが結婚したという事実がガイズの中でじわじわと大きく広がっていて、そのせいでセイラに対する気持ちがいつかガイズ自身も隠しきれなくなってしまうとしたら。
 ダリオスの中で、ガイズは一番セイラに近づけてはいけない人物になっていた。

「ダリオス様、あまり眉間に皺を寄せてばかりいると、セイラ様に嫌われてしまいますよ。あまり根気を詰めすぎないようにしてください」

 クレアが眉を下げてそう言うと、ダリオスはハッとしてから苦笑する。 

「……そうだな」

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