1度ならず2度までも君に恋をする
「真紘くん、本好きだね」


 声をかけると、彼はゆっくりとこちらに視線を向けた。手慣れた動作で文庫本にしおりを挟み、ベッドサイドのチェストに置く。それから眼鏡を外し、カチリと音を立てて眼鏡ケースに収める。

 その流れの中で「まあ、好きかな。趣味と言えるくらいには」と返している。


「そっか、大学時代はさ映像の方が好きだったよね」

「まあ、そういう仕事するって決めてたから」

「コピーライターを目指したのは何で?」


 問いかけた瞬間、部屋の空気がふっと止まった。重く、静かな間。それだけで、ああ、触れて欲しくなかったんだなと後悔が押し寄せる。

 彼が何かを答える前に少しだけ黙り込むとき、それは言葉を選んでいるのではなく、答えること自体を拒んでいるのだと思う。


「答えたくなかったら大丈夫だよ?」


 嫌われたくない、拒絶されたくない、とその一心で、すぐさま逃げ腰な言葉を吐いてしまう。

 そうやって踏み込む勇気を持てないから、私達の間にある壁が、いつまでも壊れない。

 仕事に関しては、彼との距離の測り方が難しい。
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