1度ならず2度までも君に恋をする
 帰り際、私はスーパーの買い物袋を片手に、高層マンションを見上げていた。


(来てしまった…!)


 連絡は、あえて入れていない。事前に伝えてしまえば、きっと彼はいつものように遠慮してしまう気がしたから。だけど、こうして合鍵を使わずエントランスまで来ておきながら「入れてほしい」と押しかけるのは迷惑極まりないと思い、入るかどうかを数分程度悩んでいた。

 エントランスの前であたふたとし、もし断られたら大人しく帰ろうと自分に言い聞かせ、彼の部屋番号を押しインターフォンを鳴らした。

 数秒の沈黙のあと、スピーカーの奥からノイズ混じりの声が届く。

 
『…仁菜?』


 静かな、だけど驚いている様な声。


「ごめん、急に来ちゃって…。少しだけ上がってってもいい?」

『…いいよ』


 短い沈黙のあと、迷いなくオートロックが解錠された。カチリという小さな金属音が聞こえ、それから私は彼の部屋へと足を進めた。
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