1度ならず2度までも君に恋をする
 どうしても放っておけず、私はさりげなく様子を探ることにした。給湯室で淹れたコーヒーを持ち、彼のデスクの邪魔にならない位置にカップを置く。


「お疲れ様です」

「お疲れ。ありがとう」

「いいえ、どうかしたんですか?」


 自然なトーンで問いかけながら、机上の資料にそっと目を走らせる。どうやらまた新しい案件のようだった。だけど、ただの新規案件にしては、彼の纏う空気があまりに重すぎる。

 真紘くんは「なんでもない」と短くそう告げると、資料をファイルへと閉じてしまった。すんなりと話してくれるはずがないことは分かっていたけれど、拒絶のようなその動作に胸がちりりと痛む。

 どうにか力になりたかったけれど、今の私には力不足で出来ることはなさそうだった。


「何かあれば仰ってくださいね」

「ありがとう」


 私はそれ以上踏み込めないまま、自分のデスクへと戻るしかなかった。

 自分のデスクに戻っても、手元の業務にはなかなか集中できなかった。せめて何か彼のためにできることはないかと、頭の中で必死に考えを巡らせる。

 普段の真紘くんは、決して弱音を吐かないし、誰かに甘えることもしない。だけど、本当は私にくらい甘えてほしい、とそう願ってしまうのは我儘なのだろうか。

 今夜、彼の所に行って身の回りのお世話をしてリラックスしてほしい、なんて思うけれど、今の彼が一人で静かに考えたい状況なのだとしたら、突然押しかけて世話を焼くのは、かえって迷惑になるかもしれない。

 支えたいという純粋な気持ちと、邪魔になりたくないという気持ち。恋人になっても距離感は測れないままで、私の思考は同じ場所を何度もぐるぐると回り続けていた。
 
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