1度ならず2度までも君に恋をする
 話を続けながら、まな板の上で三つ葉をざく切りにし、鶏肉は皮を付けたまま一口サイズに切って軽く塩を振る。

 そんな下準備を進めていると、真紘くんが後ろから、そっと私を抱きしめてきた。キッチンに彼が横に立っていることは珍しくないけれど、料理をしている最中にこうして甘えるように抱きついてくるのは、どこか珍しかった。


「どうしたの?」

「…いいな。こうやって急にきて料理作ってくれる彼女。それに、今日は特に会いたかった」


 背中越しに伝わる体温と、耳に届く柔らかい声。彼女という言葉、そして会いたかったという直球な言葉。その響きがあまりに切実で、私の胸の奥はぎゅっと締め付けられた。


「…迷惑じゃなかった?」

「全然、いつ来てもいいよ」


 耳元で囁かれる優しい声。彼の所に踏み込むことをあんなに躊躇していたけれど、その肯定が何よりも嬉しかった。


「…合鍵いる?」

「え?」

「いつでも来れる様に」


 聞き間違いかと思い少し後ろを振り返ると、彼もまた私を覗き込んでいて、至近距離で視線がぶつかった。

 真紘くんは軽く小首を傾げ、真っ直ぐに私の目を見つめている。瞳を見ると、冗談を言っているようには見えなかった。


「…いいの?迷惑じゃない?」

「何で?いいよ」


 あまりに迷いのない即答。あまりに呆気なく差し出された許しに、言葉が詰まる。ようやく絞り出せたのは、掠れた「うん」という返事だけだった。

 彼は私の頬に優しい口付けを落とすと、頭をポンポンと愛おしそうに撫でて離れていった。

 不意の甘い接触に、顔が熱くなる。彼が再びデスクの方へ戻っていく気配を感じながら、私は緩みっぱなしの口元をどうにか引き締めようとしたけれど、込み上げてくる幸せを抑えきれなかった。
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