1度ならず2度までも君に恋をする
「こちらは先ほどのWEBアンケートで、同時に実施した価格受容性調査の結果です。五百円という価格設定に対しての高い・安いの判断、そして購買意欲の相関を、既存の購買傾向と掛け合わせ集計したデータになります」


 飛んでくる懸念点や質問を事前に想定し、完璧な準備を整える。流れるような補足説明には一分の隙もなく、私は改めてさすがだと思った。

 相変わらず頼もしい上司としての背中がそこにあり、何度でも追いかけたくなるような徹底した仕事ぶりだ。


「データによれば、日常的に良質なものを選び取る習慣のある層において、この価格は高いと認識されつつも、同時に七割近くが相応の価値さえあれば迷わず購入すると回答しています。つまり、高価格であることは障壁ではなく、むしろ特別なものであるという証明として機能しているということになります」


 ここにいた誰もが佐久間さんの分析に呑み込まれ、他に疑問や懸念の声が上がることはない。

 そのまま誰も声を上げないのを確認すると質疑応答は締めくくられた。

 その後、会議は予算配分やタレントのキャスティングといった具体的な話の説明へと移っていった。

 結局、私のコピー案については、今日の分析結果を反映させてブラッシュアップした上で、後日改めて提案することになった。

 今日の会議を聞いていた上で、今このノートパソコンに打ち込まれている言葉が、あまりにも力不足に思えたからだ。

 会議のたびに、こうして自分の底の浅さに絶望している気がする。

 新人の頃なら次は頑張ろうと思えたかもしれない。だけど、キャリアを重ね、戦略の重要性も、言葉の重みも十分に理解しているはずの今になっても、私はまだこの場所に立ち尽くしている。

 誰かの人生の一瞬を彩り、感情を揺さぶる言葉を。

 そう願ってこの世界に飛び込んだはずなのに、今の私は自分の心さえ満足にコントロールできやしない。

 こんなので人にとって心動かされるものを作りたいなんて夢を、本当に叶えられるのだろうか。
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