恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

店を出ると、夜の空気が思ったより冷たかった。
ラーメンの湯気でぼんやりしていた頭が、少しだけはっきりする。

高橋はポケットに手を入れたまま、駅の方をあごで指した。


「じゃ、また明日」

「うん、また明日」

それだけ言って、私たちはそれぞれの方向へ歩き出した。



帰りの電車の中。
窓に映る自分の顔を、ぼんやり眺める。

今日、ちゃんと終わらせた。

高橋のことも。

胸の奥で、静かにひとつ区切りがついた気がする。


電車に揺られながら、スマホを取り出す。

ラインの一覧を開くと、指が迷わずある名前のところで止まった。

椎名さん。

しばらく画面を見つめてから、私は短いメッセージを打つ。


『今日はちゃんと仕事に行けました。
この前は、本当にありがとうございました』


一度読み返してから、送信を押す。
既読は、まだつかない。

電車がトンネルに入る。


窓に映った自分の顔が、暗いガラスの向こうにふっと消えた。

それでも私は、しばらくスマホを握ったままでいた。
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