俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~

第三部――『きみは、ぼくの花』 ■1

 普通、列に並んだとき、前の人間が動けばすぐ詰めるもの。


 ところが、誠治の目の前の女の子はそれをしなかった。意識的に模範的な行動を拒む自己中心的な人間というよりも、気づいていない可能性のほうが高いと彼は思った。下を向く彼女の顔は長い髪に隠されて見えないけれど、後ろ姿だけでなんとなくそう感じたのだった。というわけで、彼女の前にはひと一人が立てるくらいの余分な空間がぽっかりと広がっている。

 きっとお金を支払うにも時間がかかるだろうなあ。と思っていたら、案の定。

 彼女が財布を取り出すと、途端、床に小銭の散らばる独特の音が響き渡った。

 数枚ではない。かなりの量だ。

 屈む彼女の、ストレートヘアの隙間から見える頬は真っ赤だ。

 誠治は見かねて、床に膝をつき、彼女の落とした小銭を拾ってやる。

「はい、どうぞ」

「あ、りがとう、ございます……」

 その声は、店内のBGM――コブクロの『桜』にかき消されそうなほどにか弱い。ちょうど、感動的なサビの部分に差し掛かっていた。

 目も赤い。誠治とその目を合わせることすらままならず、慌てた様子で立ちあがり、お金を支払った。
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