俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 誠治が書籍を買い、素早くバッグにしまい終えても、彼女は店の出入り口の真ん中で突っ立ったまま、紙袋と財布をバッグに入れるのにもたついていた。

 ――邪魔だな。

 と誠治は思った。だがその感情を声に変換はしなかった。

 彼は、思ったことをなるべく口には出さないようにしている。

 そのほうが、誰も傷つかない。

『おまえは、一条の実子ではない』

『だが、一条の人間として、会社を継ぐのがおまえの使命だ。成長などさせなくてよい。変革も、せずともよい。

 祖父やわたしの拡大した事業を引き継ぎ、滞り無く経営するのだ』

『おまえの意志など、誰も求めておらん』

『われわれが求めているのは、おまえという人間の器だ。

 おまえ自身などではない』

 感情は剣。言葉は、刃だ。そのことを、彼は幼い時分から叩きこまれている。

 そこに立っていられると、邪魔だよ。

 と、彼は言おうと思った。

 だが、彼の口から滑り落ちたのは、思いもよらない言葉だった。


『きみ――よかったら、近くの店でお茶でもしない?』



 * * *


 改めて対面してみても、垢抜けない女性だと思った。
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